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※アスカガ・戦後
※若干の大人描写有り
『My Immortal』 蛇足1
目覚めてから暫くの間、朝の光に透けるダイヤの複雑な輝きを眺めていたカガリだったが、このネックレスを身に付けているところが鏡で見たくなってきた。隣からは、すうすうと深い寝息が聞こえてくるが、構わず一人で起きることにした。
手短にシャワーを浴びて、再びネックレスを付ける。鏡を覗くと、ガウンの襟の合わせ目からダイヤが揺れている。細い鎖が華奢な鎖骨を強調して、我ながらなかなか似合っているのではないかと思った。
服を着ようと、上機嫌でクローゼットを開けて、はた、と気がつく。カガリが着ていたワンピースは、ハイネックで胸元にはレースの生地が使われている。そのため、せっかくのネックレスが目立たないのだ。
他の部屋にいくつか着替えが置いてあるので、そちらを着ようかと考えたが、クローゼットに掛けられているもう一つの服が目に入った途端、ある考えが頭から離れなくなってしまった。
*****
呼び鈴の音が鳴った気がして、アスランはうっすらと目を開いた。耳を澄ましても、何も聞こえないので気のせいかと思い直す。
とはいえ、せっかく目覚めたので、もう起き上がることにした。随分、熟睡したようで、頭の中がすっきりとしているのを感じた。
隣を見遣れば、カガリはもう既に起きた後らしい。
もう少し、夜の名残を惜しむような情緒があっても良いのではないだろうか。独り取り残されてしまったような寂しさを感じる。
昨夜は、たまにしか逢えぬ恋人にプレゼントを贈り、小さな諍いはあったものの、甘い刻を過ごしたはずだ。
カガリに贈ったあのネックレスは、デパートのショーウィンドーの前を通りかかった時に、ふと目に止まったものだ。一粒だけダイヤのついたシンプルなネックレスは、カガリが着けたらさぞかし似合うだろう――というより、着けるべきだという思い込みに近い意気込みで、つい買ってしまった。
この時もしかすると、若い女性が毎日身に着けていても、ファッションの一部と受け取られるものならば……と狡い打算も働いたのかもしれない。力も無いのに、着けているだけで他人のいらぬ邪推を受けるものを贈ってしまった過去は、何彼につけ、今のアスランの価値観に影響を及ぼしていた。
それが、小さな諍い――実は、アスランが一人で空回りしていただけなのだが――を引き起こしてしまったが、カガリはアスランの我侭すらも包み込んでくれた。
『あの』他人からの好意の種類に無頓着であったカガリが、いつの間に、あのような慧眼を身に付けたのだろうか。どこか報われたような気がした。
そうして夜更けまで、二人は想いをまた一つ深め、尊い時間を過ごしたのだが……。
アスランは、起こしてくれれば良いのに、と粘着質にぼやきながら顔を洗い、服を着ようとクローゼットを開けた。
「あれ?」
そこには、無いはずのものがあって、あるはずのものが無かった。
(まったく、カガリは……)
やれやれと溜息を吐いて、ハンガーに掛けられた細身のワンピースを手に取る。鍛えられた男の肉体を持つアスランには、到底入りそうにないものだ。
おそらく、昨日アスランが着ていたスーツは、カガリが着ていったのだろう。如何にも彼女のやりそうな悪戯だと思った。
そこへ、外から物音が聞こえてきたので、中庭に面した窓から下を覗く。カガリに何か言ってやろうと思って口を開きかけた時、あんぐりと口を開けた管理人夫人の姿が目に入った。
******
カガリは、アスランのスーツを着てご満悦だった。
大きいので裾を折り返す必要があるが、ワイシャツのボタンを一つ外すと、ちょうど良い具合にダイヤが見える。
(アイツ、ぜったい驚くぞ~)
くくく、と笑いを漏らして、キッチンでお湯を沸かし始めた。
湯が湧くのを待っていると、呼び鈴が鳴った。人払いをしているはずなのにと不思議に思い、インターフォンで確かめる。
やってきたのは別荘の管理人夫人だった。頼んでおいた朝刊を届けに来てくれたらしい。
郵便受けに放り込んでもらって構わないのだが、新聞社を指定して数紙頼んだため、仕事に対して律儀な管理人夫人はわざわざ確認を申し出てくれたのだそうだ。
中庭に面した勝手口から出る。着替えるべきだったかと思い至るが、もう外に出てしまったので今更だと開き直ることにした。
「おはよう」
「おはようございます。新聞と、パンをお持ち致しました」
焼きあがったばかりなのか、ふんわりとバターの香りが漂っている。カガリを呼び出したのは、これを渡したかったからでもあるのだろう。
「ありがとう。朝、焼いてくれたんだな」
「お嬢様、お好きでしたでしょう? 久しぶりにこちらに来られると伺い、つい昔が懐かしくなって作ってしまったんです」
この別荘は、出来るだけ外部の業者を入れないようにしている場所で、管理はこの管理人夫婦にほぼ一任している。
子供の頃、父と共にここへ泊まりに来ると、朝は焼きたてのクロワッサンが並べられていた。カガリはそれを一人で三つも四つも食べて、他のおかずが入らなくなるぐらい好きだった。
昔を知っている人には、未だに『小さいお嬢様』なのだと面映い思いで苦笑して、籠を受け取る。
その時、上の方から、ぎっという物が軋むような、擦れたような音がした。
夫人と同時に、カガリは上を見上げて唖然とした。
「……ば、ばか! お前、そんな格好で!」
怒りと羞恥で頬を染めた叫ぶと、窓を開けたまま驚いて固まっていたアスランも、はっと気がついて動き出した。
「あ、す、すみませんっ……!」
かろうじて下着は身に付けているものの、全裸に近い姿をしたアスランは、手に持っている布で、慌ててその身を隠そうとした。
しかしながら、細い女物のワンピースでは、男の広い身体を隠すのに、あまり効果はなく――むしろ、無骨な男の身体に、フェミニンなワンピースを合わせているようで、何とも興ざめな光景であった。
《前編・後編・蛇足1・蛇足2》
【あとがき】
本当は三ヶ月程前に、拍手数とPCからのアクセス数が切りの良い数字だったので、フリー配布しようかと思ってたんですけど、あんまり出来が良くなかったので今頃こっそりアップ……
もう、開き直って、三編構成にしてみました。
解釈が分かれるものをテーマに選んだのも、良くなかったのかもしれません。
アスカガサイトでこういうこと言うのは勇気いるんですが、アスランがカガリに指輪を強引に渡したことにニヤニヤはしても、「ぎゃ~!プロポーズした!アスカガおめでと~!!」みたいな盛り上がりは全くなくて、どちらかというと「あ~あ。やっちまったな、こいつら……」という感想を持ってたのです。
まあ、その痛さが、ある意味良いと思ってるんですけど(苦笑)
蛇足編の展開は、何年か前に放送していたダイヤモンドのCMで、めっちゃセンスが良くて、大好きだったものがありまして、若干アレンジを加えてアスカガ変換したものです。あのセンスが全然表現出来てないのことには、どうか目を瞑って下され。
ブランド名を全く覚えていないので、もしご存知の方がいらっしゃいましたら、教えていただけると嬉しいです。