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※アスカガ・戦後(アスハ邸にて、久しぶりの逢瀬)

『段差』




 いつものように、食事を終えて、カガリの私室に向かおうとした時だった。

 階段を先に上がっていたカガリが得意気にアスランを振り返って言った。
「私の方が背が高いな」
「当たり前だろう……」
 カガリの方が一段高い分、二人の身長差は、僅かに彼女の方が勝っている。
 当たり前の事実を、さも嬉しそうに言うカガリに対して、アスランは呆れたように溜め息を吐いた。
 相手にしようとしないアスランの態度を見咎めて、カガリは拗ねて口を尖らせた。
「お前ばかり背が伸びて狡いぞ!」
「……いや、それは仕方がないじゃないか」
 どうにも、カガリの癇に障ったようである。
 アスランは、この先の展開を思って、自らの失態を忌々しく思ったが、どうあっても自分がカガリに詫びるのは、違うように感じた。
 アスランの方が背が高くて狡い。アスランの方が筋肉が付いていて狡い。アスランの方が強いから狡い。――カガリの『三大アスランは狡い』である。
 そう言われても、アスランにとってはどうしようもないことで、「狡いぞ」と言われても、対処の仕様がないのだ。第一、それらが恋人よりも劣っていては、男としての面目が立たないだろう。
  ――相変わらず、カガリは男心が分かっていないな。
 今度は、心の中だけで嘆息すると、ふと目の前に影が差した。
  気が付いた時には、羽のようなものが唇を撫でていった。

 それが、カガリの唇だと思い至るには、瞬き一つ分を要した。
 酒で潤んだ琥珀の瞳が眼前にある。存外、顔が近いことにアスランは初めて気が付いた。
 いつもは、二人の身長差の分、アスランは屈む必要が、カガリは背伸びをする必要があった。今はその努力が全く必要ない。
  カガリが踵を返して、一段上がり、さらに次の段に足を掛けた時、一歩近付き、無理矢理に腕を引いて、唇を奪った。
 お互い、上半身をだけを近付けて、無理な姿勢で口付けている。
 カガリの前髪が額にかかって、くすぐったい。
 恥じらってアスランのキスから逃れようとしてばかりいるカガリが、その位置の関係から、唇を押し付ける様にして応えている。それが、カガリが能動的に口付けを施しているようで、アスランの興奮を煽った。
 キスがどんどん濃厚になり、カガリの唾液が絡ませた舌を伝ってアスランの口腔に溜まる。ごくりと喉を鳴らせて飲み込めば、先程のワインの味がした。
 唇の内側が擦れる感触に背筋がぞくぞくする。
  酔いしれるように、カガリの唇を貪っていたアスランだったが、苦しそうなカガリの様子に気が付いて、カガリの髪に潜らせていた左手を緩めた。

 漸く自由に呼吸ができ、肺に吸い込まれる空気がカガリの意識が緩ませた。
 体勢を保つためにカガリの左手は階段の手摺を掴み、右手はアスランによって掴まれていたのだが、左手の握力が緩み、重心を前に傾けていたカガリは、真っ直ぐアスランを目掛けて落下した。
  自由に呼吸ができて緊張が緩んだのはアスランも同じで、彼の右手はカガリの左腕を封じ、左手はカガリの髪で遊んでいたために、落下してきた彼女を支えて立ち続けることが出来なかった。
 結果、二人の身体はぴったりと折り重なって、見事に一番下の段まで落下することになった。

  ただ、幸いだったのは、カガリはアスランのおかげで怪我は無かったし、アスランは身を呈して恋人を守ることができたことであろうか。――但し、カガリはこれに、異議を唱えるであろうが。
  


  普段アスランがアスハ邸を訪れた時は、極力二人だけにしてくれる家人たちも、この大きな物音には驚いて様子を見に来たようだ。「まぁ、まぁ、まぁ!」と大仰に騒ぎ立てるカガリの乳母が、怪我はないかと尋ねた。
「大したことはありません。足を滑らせてしまって……」
  アスランが無難に答えると、乳母は、二人の体勢から、アスランが階段から落ちたカガリを庇ったのだろうという結論を出した。

「何でそうなるんだよ!」とカガリが不平を言うと、
「あら、ではどうして階段から落ちられたのです?」と、乳母は至極真っ当な質問を返した。

  ――言える訳がない。

  確かにアスランが仕掛けたとは言え、階段でキスに夢中になっていただなんて理由は、カガリには言うことができなかった。
  口ごもるカガリの様子に、乳母は、「カガリ様がうっかりしていて階段から落ちた。そして、アスラン様は、そのとばっちりを受けた」という真実に行き当たったのだった。日頃の行いの賜物であろう。

「きちんとアスラン様にお礼をお言いなさいませ」
 とお説教を始めたと思えば、
「どうして大人になられても、そんなに落ち着きがなくていらっしゃるのか」
 と嘆き始め、このまま延々と演説を繰り広げようとした時、
「すみません。俺が、しっかり支えてあげられれば良かったのですが……とにかく、カガリに怪我がなくて良かったです」
 と言う主人の恋人の好青年ぶりに、乳母は、頭を下げたのだった。



 *****



「狡いぞ! お前だって悪いのに、私だけ怒られたじゃないか! お前、外面が良すぎる!」

 カガリの「狡いぞ」に、また一つレパートリーが増えたなどと思っていたら、先に部屋に入ったカガリによって、アスランの鼻先でピシャリとドアが閉められ、鍵を掛けられた。
 コンコン、とノックをしながら、中に呼び掛けても返事はない。
「……ごめん。俺が悪かった。許してほしい」
 やはり、返事はなかった。
 ドア一枚隔てた向こう側に、カガリの気配を感じる。
 カガリの柔らかい頬に触れるように、彼女の顔の位置で、ドアの木目の曲線を撫でた。
 何度も呼び掛け、謝罪したが、カガリは神代の太陽神のように、天の磐戸に閉じ籠ることに決めたようだ。
 部屋まで我慢すれば、こんなことにはならなかったのに――今更、悔いても、せんないことだ。
 久しぶりの逢瀬は散々なものとなった。

「本当に、カガリに怪我がなくて良かった。――今夜はゆっくり休んで。おやすみ」
 別れを告げ、立ち去ろうとした時、カチャリと鍵が開き、磐戸から女神が顔を現した。
 膨れっ面で、まだ彼女の怒りが完全に溶解していないことが分かる。
「……入っても?」
 顔色を窺うような問いに、カガリが首を縦に振って、短くその意思を伝える。
「――ごめん。でも、部屋に入れてくれて嬉しい。また、暫く逢えなくなるのに、このまますれ違ったままでは、やりきれないから――」
 素直に気持ちを伝えること――それが、かつて二人を暫くの別離に導いた過去から、アスランが得た一つの教訓だった。

「……私は、まだ怒っているんだからな」
「ごめん……」
「……馬鹿」
「うん。ごめん」
「馬鹿」

 それから、暫く、ごめんと馬鹿の遣り取りは終わることが無かった。



  この後、アスランの背中や尻に大きな痣を見つけて、カガリが優しくしてくれるようになるのだが――
  その過程において何があったのかは、二人にしか知り得ぬことである。











【あとがき】
(100117:四方山)
携帯で書いたものを、幾分か修正してアップ。
階段でキスしているシチュエーションが書きたくて書いた話。
その後の展開も、自分の妄想を吐き出せて楽しかったのですが、キスしているところで終わった方がすっきりしていたかも……
 
 
 

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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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