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※アスカガ・キラカガ・キララク(キラフレ)・戦後・キラ視点

『彼女は涙し、彼は怒り、僕は心配する。』




「……キラ」
  いつも勝気な片割れが、珍しく弱々しい声を出している。

 否、かつて彼女が自ら主張することを諦め、意に染まぬ結婚を決意した時には、キラが見たことがない程、悲痛な様子を見せていた。
 あの時、強く思ったものだ。――もっと早くに、力になってやれば良かった、と。


 訳も分からぬまま巻き込まれた戦争を、確たる自分の意思で終えた後、キラはもう何も考えたくないし、何もしたくないと思った。武器を手にしても護りたい人を護れず、憎しみで誰かを殺してしまえるだけの能力を持つ自分が、もう心底嫌になってしまったのだ。
 帰りを待っていてくれている人がいるから帰っただけで、心はあの深淵の宇宙に置いてきてしまった。
 母艦に戻った後のことで覚えているのは、みんなが代わりばんこに見せる痛ましい顔だ。気が付いた時には、あの南の島にいた。
 そこは時間がゆったりと凪いでいる場所だった。

 あのぬるま湯に浸かる様な穏やかな時間は、彼女が与えてくれたものだ。彼女は、キラの幼馴染みと共に、激流の中にいたというのに――


  震える肩を抱いてやる。
  伏せた長い睫毛が揺れる度に、透き通った雫が頬を伝う。
  キラが、どうしたの、と訊くと、歪んだ顔を見せたくないとばかりに、キラの肩に頭を埋めた。
 ラクスの方を窺うと、彼女も首を横に振った。
  一体、何があったのか……。
 今までにカガリが泣いたのは、数え切れないほどあるけれど、このように自分を押さえ込んだ涙は、未来を諦めてしまいそうだった時だけだ。他の時はいつだって、怒りや、憤り、悲しみ、そして喜びと、大いに衝動を発露させ、エネルギーに満ち溢れた涙だった。
  キラは、ふと思ったままに、声に出してみた。
「……もしかして、アスラン?」

  薄い肩が、不自然なほど跳ね上がった。――どうやら、正解らしい。
  今のカガリが泣くなら、オーブのことか、あの翠の瞳をした幼馴染みのことだろうと思ったのだ。そして、どちらの確率が高いかと言うと、間違いなく後者である。
 カガリにとって、オーブの問題は、自らが権限と責任を持って対処すべきことであり、ただ嘆くことは、無力な自分に甘えることを意味する。彼女には既に、そんな過去を乗り越えた強さがあった。
  だが、幼馴染みのことは違う。
  彼女は、彼に対して大きな引け目があった。キラからしてみれば、お互い様の様に思えるが、彼女は自分の弱さと愚かしさ故に、その手を自分から伸ばせずにいるのだ。

  どうしてこの二人はこんなに焦れったいのかと、キラは思った。カガリはいじらしいし、幼馴染みは苛立たしいし、二人の気持ちと立場を思いやると、激しいジレンマに陥ることになる。
 しかし、ここで見ているだけでは、あの時と同じである。自分が落ち込んでいる時には優しさをもらったのに、彼女が落ち込んでいる時に何もしないのでは、何とも情けない。何もせずに後悔するだけなら、誰にでもできることだ。
「僕からアスランに、何か言って欲しいことってある?」
  誰かを間に挟んだ方が、上手くいくことだってある。そう思って提案してみると、カガリは案の定、首を横に振った。きっと、自分が悪いと思ってのことだろう。――やっぱり、カガリはいじらしい。

 キラがほっそりとした手で、カガリの頭や背を撫でていると、突如、部屋のドアが開いた。
 噂をすれば、影である。
 幼馴染は、乱暴な足取りでカガリに近づき、キラから引き剥がした。
「こんな所で泣いていないで、直接俺に言えばいいだろう!?」
 余りに横柄な態度に、キラは唖然とした。しかし、若干出遅れたが、弱っているカガリに味方してやらなくてはと口を開きかけたところを、やんわりとラクスに止められる。

「……何を言えばいいって言うんだ。お前は、私にできないことをしろと言う。独身の私には、夜会に出るためにエスコートが必要だし、トキノ家の者とは友好をアピールする必要がある。…………もう嫌になったら、去ってもらって構わないんだ……」 震える声を絞り出して、カガリが言った。
「――正直、理解はできても、納得はしていない」
 聞き覚えのある台詞に、キラは反応した。この幼馴染には、『反省』という言語はプログラミングされていないのかと腹が立ったが、ラクスに止められていることでもあるし、静かに睨み付けてやるだけにした。
 それを物ともしない顔で、彼はさらに言った。
「他の男に、外賓やメディアの前で連れまわされて、いい気がするわけがないだろ。それを嫌だと言って何が悪い。俺は、前とは違って、嫌なものは嫌だと言うし、もう我慢しないと決めたんだ」
 そうして、彼は、カガリの反応を待ったが、彼女は押し黙ったままだった。
 その様子に焦れて、彼は怒鳴った。
「勝手にしろ!」
 勝手をしているのは君だ! と、部屋を出て行く幼馴染に、我慢ができなくなって怒鳴ってやろうとした時だった。

「――俺だけが手を伸ばしたって駄目なんだ……」

 途方に暮れたような、弱々しい声が聞こえた。
 それは、カガリの耳にも届いたようで、はっとしたように頭を上げた。
 幼馴染の足音が聞こえなくなるまで、カガリは、彼の消えたドアを見つめていた。縋るような必死な光を湛えていた琥珀の瞳は、次第に力を無くし、足元へと落ちた。
 ここはじっと我慢すべきなのだろう。焦れったいから、口を出してしまいそうだ。だが、それではきっと駄目なのだ。多分、ラクスもそれが分かっていたから、キラを止めたのだろう。
 カガリは依然として動こうとはしなかった。それもそうかもしれない。そんな半端な覚悟で指輪を外したわけではないのだから。
 その逡巡の様子が分かって、どうにも堪らなくなってきた頃。
 ――カガリが動いた。


「キラ。迷惑かけて、ゴメン……」 
 そう言って、キラの腕から抜け出すと、まるで、華奢な背中に羽が生えたかのように、前に向かってだけ走っていく。腕の中のぬくもりが消えて寂しい。だが、カガリが久しぶりに見せたそんな姿に、胸がすくような思いだった。
 キラは肩を竦めて、やれやれといったポーズを見せたが、ラクスはくすくすと笑って、キラの気苦労を取り合ってはくれない。そんなキラの不満を読み取って、彼女は宥める様に言った。
「大丈夫ですわ。アスランも、溜まった不満をぶつけるだけではなく、きちんと向き合うことを覚えたのです。ですから、カガリさんも、アスランを想うのであれば、逃げ出さずに、その気持ちに応えるべきだと思います。きっと、彼女は、言い訳するのがお嫌なのでしょうが、言わなければ、アスランも不安になりますもの」

 どうにも、言葉が足りない恋人たち――。
 彼らの姿は、かつての自分を思い出させた。未熟だったから、一緒にいることが、ただつらかった。
 キラは、途方に暮れて投げ出してしまったけれど、彼は諦めずに、彼女を追いかけてきた。そして、彼も彼女も生きていて、生きている間は話し合うことができるはずだ。
 もう、キラには、やり直すチャンスはないけれど……。
 だからこそ、もう誰にも、自分のように、後悔はしてほしくはないのだ。アスランも、カガリも、取り返しが付かなくなる前に気が付いて、本当に良かったと思う。

 キラは、安堵して、今隣にいてくれる人の肩を、そっと優しく抱き寄せた。何よりも、キラ自身が手放さないために、そうする必要があった。















【あとがき】
(100729:四方山)
戦後は、カガリの方が消極的になるんではないかと思いまして……。

アスランはカガリが困るのが分かっているから、戦後しばらくは仕掛けないと思うのですが、
カガリが意地を張り続けるなら、アスランから手を伸ばして欲しいと思うのです。
そして、せっかく手を伸ばしてもらっても、カガリは引け目を感じてしっかり掴もうとしないんではないかな~、
でも、それではカガリが身勝手すぎるよな~。

と、なんとなく思っていることを形にした作品です。
そして、みなさんお気づきの通り、キラとラクスは私の心の代弁者……。


(100802改稿)
大分前に、携帯で冒頭だけ作って放置していたものなので、今回、パソコンで仕上げた部分とで、矛盾が生じていたため改稿しました。
 
 

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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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