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※アスカガ・オリキャラ視点・戦後IF
『サマータイム』
07.
困ったことになったと思った。有無を言わさず連れて行かれたバスルームで、僕は所在無く突っ立っていた。
「どうした? ほら、ここにおいで。服を脱がないと」
「――! じぶんでできます!」
金色の女性が、僕の服に手を掛けようとしたので、僕は慌てて服を脱ぎ始めた。それを見て、彼女も豪快に服を脱ぎ出した。
家族でもない女性に裸を見られるのは恥ずかしい。だが、成熟した女性の裸を見るのは、もっと恥ずかしかった。どうして子供の裸より、大人の裸の方が恥かしいのだろう。その理由を、まだ子供の僕は知る由もなかったが、恥ずかしいものだということは何故だか知っていた。
残すはパンツ一枚になった時、彼女の方もパンツ一枚の姿になっていた。
僕は、それまで出来るだけ彼女の方を見ないようにしていたのだが、どうしても好奇心が押さえきれず、彼女がパンツを脱ぐところを見ていた。
男にあるものが、女性には無いと聞いているが、本当に無いのか。無いとしたら、一体どうなっているのか。僕は、それが知りたかった。
今思えば、知るまでが楽しかったのかもしれない。知ってしまえばそんなものかと思うが、未知であるが故に、それは神秘性を帯びていた。
彼女が屈むと、ふんわりと丸い乳房が揺れた。女性は大人になると胸が大きくなるのは知っていたが、直接見るのは初めてだった。太っているわけではないのに、脂肪を練り固めたように膨らんでいるのが不可思議で、やはり恥ずかしかった。
そして、遂に彼女がパンツを脱ぎ去った。果たして、そこには――――
こんもりと金色の毛が生えているだけで、よく分からなかった。確かに男にあるものが無かったが、では、どうやって女性が用を足しているのか、という新たな疑問が生じただけだった。
「ん? どうした?」
「あ、えっと……」
どきっとした。金色の女性は、特に気にするでもなく、自分の脱いだ服を簡単に畳んで籠の中に入れた。
「お前も、脱いだ服はこの籠に入れておくんだぞ」
「はい」
僕もいつかここに、髪と同じ茶色の毛が生えるんだろうかと思いながら、パンツを下ろし、他の服と一緒に籠に入れた。
白く清潔なタイル張りの浴室には、猫足の大きなバスタブが一つ置かれていた。中には、良い匂いのするお湯が張られている。
「先に身体を洗ってから入るんだぞ~」
バスタブと身体を洗う場所が別々になっているらしい。
彼女は金色の蛇口を捻り、シャワーの温度を確かめると、僕の身体に湯をかけた。
「あの……じぶんでやります」
「ん、そうか。アサヒは、一人で何でも出来て偉いな」
彼女は、お湯を掛けて暖めた椅子に僕を座らせると、シャワーを手渡した。
手早く、僕が頭から湯を被ると、彼女も続いて湯で髪を濡らす。お互い無言で髪を洗った。わしゃわしゃという音だけが、浴室に響く。
泡が垂れてきても大丈夫なように、ぎゅっと目を瞑って洗っていると、泡の付いた手で耳の後ろの辺りを撫でられた。
「ここ、洗い残しているぞ」
彼女の手は、小刻みに動きながら、髪の生え際から旋毛の方へと上がっていく。父にして貰うよりも乱暴な手つきだが、父よりも細い指の力は弱く、痛みを感じることは無かった。
「流すか?」
頷くと、またシャワーを出してくれたので、頭を前に傾けて、泡を落とす。緊張の一瞬である。一心不乱に手を動かして、髪を漱ぎ、手にヌルつきを感じなくなったところで、頭を上げた。
顔を濡れた手で何度拭っても、ぼたぼたと頭から水が滴り落ちてくるため、目を開けられずにいると、彼女が乾いたタオルで顔を拭ってくれた。何とか開いた目で見てみると、彼女は目を細めて、にっこりと笑っていた。
その後も何かと、彼女は僕の世話を焼いた。何でも自分でやりたい僕にとって、子供には上手く出来ないことをフォローする彼女は、うっとおしくて仕方がなかった。まるで、僕の行動をいちいち監視し、失敗を上げ連ねているように思えたからだ。
だが、僕は大人しく従うようにしていた。彼女の好きなようにさせるのは癪だが、そうしないと何をされるか分からない。誘拐された身としては、従う他ないのだ。
身体を洗い終わった僕達は、湯船に浸かった。
しかし、あまり熱い湯に浸かりなれていない僕は、すぐに音を上げ立ち上がった。
「熱いか?」
僕が頷くと、バスタブの淵に座らせてくれた。それから暫くして、もう一度僕を湯船に浸かるように言った。
「胸を出していると、もう少し長く浸かれるから。あと三十数える間だけ、浸かってみよう」
彼女は、僕を膝の上に座らせると、一から順に数え始めた。歌うように節のついた、うっかり一緒に声を出したくなるような、不思議な数え方だった。
浴室で反響していた声が止む。僕は、父とは違う柔らかく弾力のある身体に抱かれ、浴槽から出た。
風呂から上がっても、彼女は床に膝を着いてまで、僕の世話を焼き続けた。背中がまだ濡れているだの、髪をしっかり拭けだのとうるさい。そのくせ、当の本人の背中が濡れているのだから、余計なお世話というものだ。
彼女のタオルは、僕の髪を拭うのに使われていたので、僕のタオルで、彼女の背中を拭いてやる。すると、僕と同じ高さにある琥珀の瞳が、柔らかく弧を描いた。
「ありがとう。もう、髪も拭けたから、服を着よう」
着ていた服は、洗濯してもらっているようで、籠の中には新しい着替えが用意されている。パンツは新品だったが、赤いTシャツとジーンズ生地のハーフパンツは少し着古した跡があった。
誰が着たものなのかを想像して、気分が悪くなってきたが、裸でいるわけにもいかないので、それに着替える。
サイズは、やはりと言うべきか、僕にピッタリだった。
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