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※※本編をご覧になってから、こちらをお読み下さい※※
※中編『グレープフルーツ』の後日譚・キラとカガリ(アスカガ)・'12キラカガ誕生日
『スターフルーツ』
カガリは広いベランダに出ると、今日が良いお天気で良かった、と大きく伸びをした。
足元には、先ほど洗いあがったばかりの洗濯物が入った籠が置かれている。初夏だというのに、風が強く肌寒い日が続いているが、この風と日差しならば洗濯物はよく乾きそうだ。
と、急に窓枠の影がすーっと細く伸びて人型を作り、むくむくと起き上がった。
「おはよう、カガリ」
カガリは人が突然現れたことに、驚きもせず平然と挨拶を返した。
「おはよう。久しぶりだな、キラ」影を伝って移動できるのは悪魔だけ、それも、カガリを訊ねてくる者は彼しかいない。
「え? そうだった?」
「うん。もう一月も会ってない」
一月ぐらいでは久しぶりとが言わない、とキラは言いかけたが、それが意味することを悟って口を噤んだ。
カガリは、濃いグレーのシーツを竿に掛け、パンパンと両手で挟むようにして叩き始めた。
「ねえ、それは何をしているの?」
「これ? これは、こうやって叩くと皺が伸びるんだぞ」
アスランに教えてもらったんだ、とカガリが得意そうに笑う。彼女は人間になったばかりなので、知らないことだらけだった。濡れている間に、いちいち皺を伸ばさなくてはならないのは面倒臭いとも思うが、乾いた時の仕上がりが違うのだと言われれば、そういうものかと納得している。
カガリは、孵ったばかりの雛のような素直さで、人間の先輩であるアスランの教えを吸収していた。
しかし、それがキラにとっては面白くない。
(なんだよ、人間かぶれ)
まるで、自分の半身が人間に毒されているように思えた。あらん限りの言葉を費やして、カガリを誑かしたアスランを頭の中で罵ってやる。
だが、カガリは悪魔だった頃から、悪魔らしくなかったので、こちらの生活の方が性に合っているようだった。何しろ彼女は、自身の年齢で果たすべき任務をこなそうとして、うっかり消滅しかけたあげく、人間になってしまったのだから。
ただ食事をするだけなら、通りがかった人間の陰の気を吸い込むだけで良いのだが、任務ともなると色々と手間が掛かる。
その任務の内容とは、指定された人間のテリトリーに入り込み、その人が最もダメージを喰らう方法を調べ上げ、効果的に不幸にするというものである。ある悪魔はターゲットに多額の借金を背負わせ、また、ある悪魔は結婚詐欺でターゲットに金銭的負担と精神的苦痛を与えていた。
そして、カガリは初めて接触したターゲットに向かって「お前を不幸にしてやる!」と宣言した。勿論、宣言する必要は全くない。カガリに言わせると、正々堂々とやらないのは卑怯なのだそうだ。
つまり、カガリの任務は、初めから失敗していたというわけだ。――但し、ターゲットはカガリによって効果的に不幸にされたので、この場合のみに限定はされるものの、あながち間違った方法ではなかったのかもしれない……が、やはり能率が良い方法とは言えないだろう。
「ふう、終わった……」
洗濯物をクリップで固定すれば、洗濯干しは終わりだ。皺がきれいに伸びた洗濯物が、風でパタパタとはためいている。
「これからバイト?」
「うん。でも、まだ時間あるから、お茶でも飲んでけよ」
「オレンジジュースある?」
「あるよ」
カガリがお茶の用意をしている間、キラも慣れたもので、堂々とリビングのソファに寝転び、テレビを点けた。
「この時間帯は、面白くないものばっかりだなー」
勝手にテレビを点けた上に、文句まで言う。アスランのいない時を見計らって、度々遊びに来ているため、キラにとっては最早第二の棲家のようなものである。
あふぅ、と一つ欠伸をしたところで、カガリがお茶とクッキーの袋をテーブルの上に置いた。その時、
パァーン!
と銃声のような物音がして、キラは飛び上がった。
「へへへ……驚いたか?」
「……うん」
カガリの手には、クラッカーが握られており、開いた口からは色とりどりの紙テープが飛び出ていた。
「今日は、キラの誕生日だからな」
「えー何それ、僕って今日誕生日だったの!?」
「そうらしいよ。魔王様が用意してくれた戸籍謄本に、そう書いてあった」
カガリが人間として地上で暮らし始める時、餞別として戸籍と経歴が与えられた。人知れず誕生する悪魔には戸籍も誕生日も存在しないのだが、人間として暮らす以上はIDが必要となるからだ。カガリとキラは双子なので、同じ誕生日ということになる。
「だから、これプレゼントだ。私も、アスランからお祝いしてもらえるから、キラにもって思って。今日、ちょうど来てくれて良かった」
可愛らしくラッピングされたクッキーが手渡される。
「ありがとう」
誕生日を祝ってもらうなんて、初めてのことだ。アスランの影響というところが少し気に喰わないが、なかなか良いもんだな、とキラは思った。
ほわほわとした気分で、早速クッキーを齧っていると、カガリが言った。
「ごめんな、キラ。一緒に産まれたのに、私の方が、ずいぶん先に死んじゃう」
ぼり、……。口の中で砕いたクッキーが、一際大きな音を立てた。
(ああ、カガリも気が付いていたんだ……)
一緒に産まれたのに、今は流れる時間の重さが違う。人間のカガリにとって一月は大きな単位だが、長命である悪魔のキラにとってはほんの一瞬に過ぎないのだ。
「アスランとは一緒なの?」
「どうだろう? いつまで一緒にいられるか分からないけど、さすがに死ぬ時は別々だろうなあ……」
自分達はたまたま一緒に産まれたけれど、普通は、産まれて来る時も、死ぬ時もたった一人なんだろう。それだけは、悪魔も人間も変わらない。
「だから、それまではずっと一緒にいるつもり」
今は、種でさえも異なってしまった片割れは、幸福そうに笑った。そんな彼女は、とても眩しくて――――キラは、涙が零れないよう頑張るのが大変だった。
【目次】
【あとがき】
一日遅れになっちゃったけど、キラカガバースデー。
説明が多くて申し訳ないです。元々、設定だけはあったんですが、本編で説明出来なかったので入れてみました。