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※アスカガ学パロ(高校生・幼馴染)
『つつゐづつ』 5-3
一人で昼食を済ませたラクスは、廊下の窓から景色を眺めていた。
まだ、留学から帰って来たばかりで、友人がいない。一学年下のクラスに編入したために、気の許せるような友人を持つのは難しいとは分かってはいるが、やはり皆が連れ立っているのに自分だけが一人でいるのはつまらないものだ。
ふと、体育館脇の銀杏の樹に目を遣ると、見覚えのある金髪の少女が一人でベンチに座っている。
彼女の姿が寂しそうに見えたので、つい気になってラクスも外へ出てしまった。きちんと話したこともないのに、彼女の力になってやらなければと思ったし、彼女ならばラクスの前で身構えたりしないと期待する気持ちもあった。
「アスハさん?」
ラクスの足音にも気がつかない様子だったので、声を掛ける。
「ラクス……って、ごめん! 勝手に呼びつけにしちゃった」
「構いませんわ。ラクスとお呼び下さい。わたくしも名前でお呼びしてもよろしいですか?」
「うん。もちろんだ」
もしかして拒絶されるだろうかとも思ったが、やはり彼女は人当たりが良くて、ラクスの座る場所を用意してくれた。
そうして、二人で日陰のベンチに座って、楓や銀杏の葉が落ちるのを眺めた。
やや冷たい風が、頬やむき出しの膝を撫でる。
秋は、空が高くて、空気が澄んでいて、清々しくて気持ちいいけれど、少し寂しい。
「ラクスは――さ……、誰かと付き合ったりしたことがあるのか?」
「いえ。男の方とお付き合いしたことはありません」
「女とも?」
「……。はい」
「そうか……」
『女』とも、という問いに、ラクスは少し首を傾げる。
「カガリさんは――」
「カガリだ」
「カガリは、この間一緒にいた方とお付き合いされているのでしょう?」
「え? アスランは、ただの幼馴染だ」
ラクスの問いに、カガリはぱちくりと瞳を瞬かせた。
「そうですか。とても仲がよろしいように見えたものですから」
ラクスは、自分の当てが外れて、少々驚いた。二人の気安さには、誰も入っていけないものを感じたから、きっと特別な関係なのだと思っていたのだ。
「うん。小さい時からずっと一緒だったから、仲が良かったんだ」
「そうですか……」
幼馴染というだけで、あんなに仲が良いのだろうか。幼馴染がいたことのないラクスには良く分からない。
アスランとかいう少年の片思いなのかもしれない。あの時の彼は、カガリをものすごく優しい目で見ていたから、少なくとも彼の方は彼女が好きなはずだ。
「でも……」
「喧嘩でもされたのですか?」
浮かない顔のカガリに、ラクスは心配そうに尋ねた。
「喧嘩っていうか、もしかしたら私はアスランを傷つけたかもしれない……。いつも通りなんだけど、ちょっと距離があるというか……」
「謝れば許して下さるかもしれませんよ。わたくしが見たところ、彼は、少しぐらい嫌な目に遭わされても、カガリのことを嫌いになるようには思えませんでしたわ」
「謝る……か」
カガリは、なにやら思案顔で呟く。
その様子に、もう、とっくの昔に謝罪していたかもしれない可能性に気がついた。なのに、実のない励ましを言ってしまったと内心慌てていると、カガリはラクスが思いも寄らないことを言った。
「……私、アスランに謝ったことってないかも」
「え?」
「いや。喧嘩っていう喧嘩をしたことないかもしれない」
「え? でも、幼馴染でいらしたのでしょう?」
幼馴染がいないラクスでも、喧嘩をしない幼馴染がいないことぐらいは分かる。
「うん。だって、喧嘩にならないもん。アスランって、けっこう短気ですぐ怒るんだけど、ひきずらないし。私が怒ると、自分の言いたいことはごちゃごちゃ小うるさく言うけど、ちゃんと後から謝ってくれるし」
ラクスは漠然とではあるが、カガリとアスランの関係性が分かったような気がした。
この二人の関係は少し歪だ。二人の間には遠慮がないようで、教室で浮いてしまっているラクスには眩しく見えたが、それは外側だけのものであったようだ。この仮初の平和を守っている少年の努力を思うと、少しせつなかった。
「私はアスランが一番好きだったんだけど……。でも、違ったんだ。私がどれだけアスランを大事に思っているかなんて、アスランには関係なかったんだ」
「それは違い――違うと思いますわ」
「違うもんか! だって、あいつ、そういうことがしたかっただけなんだ!」
「『そういうこと』?」
「いきなりキスしてきて……。別にそれは嫌じゃなかったんだけど、胸を――って、あ!」話し過ぎたと思ったのだろう。カガリは慌てて口を手の平で覆った。
ラクスは、それで大凡の事情が分かってしまった。
しかし、その驚きを顔に出さずに平然としていたので、身を強張らせていたカガリも警戒を解いた。
「その……カガリの同意を得ずにしたのでしたら、確かにひどいとは思いますが……」
「うん。でも、あいつの方が傷ついてた……」
なるほど、と思う。アスランは、これまでの関係ではいられなくなった。カガリは、アスランと今までと同じでいたい。これでは、距離ができるはずだ。
カガリと同じ女としては、彼女の気持ちを置いてけぼりにしてしまったアスランを詰りたい気持ちが大きい。だが、彼の気持ちに全く気がついていないカガリの鈍さにも問題がある。
それに――、
「キスされたのは、嫌ではなかったのですか?」
ラクスは、そこが一番気になっていた。
「あ、……うん。別に、気持ち悪いとかは思わなかった。ただ、ちょっと怖くて……」
「怖くなかったら、されても良かったのですか?」
「……あれ? ……そういうことになるよな?」
ラクスの問いかけに、カガリは、自分でも分からなくなっていた自分の気持ちを、一つ一つ見つけ出しているかのようだった。
「でも、なんだか、心臓が壊れそうになっちゃって……」そう言って、カガリは何かを考え込むように俯いた。
そう。その理由に気がついてくれたら――。とラクスが切実に願っていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
二人は、慌てて教室に戻ることにした。
モドル≪ ≫ススム
【あとがき】
う……。思ったよりも長くなってしまった……。一話の長さが不均等で、読みづらかったらすみません。