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※アスカガ学パロ(高校生・幼馴染)
『つつゐづつ』 6-2
ホームルームが終わって、今日もアスランは教室でカガリを待つことにした。
数学のテキストを開く。次の試験範囲は既にやり終えているので、今日は、例題を参考にしながら数学Ⅱ分野の三角関数の練習問題を解くことにする。少し理解に手間取ったが、公式を覚えさえすれば、後は難なく解を導き出すことができるようになった。
アスランは試験が好きだ。こんなことは、同級生の前では自慢に聞こえるかもしれないから言わないが、偽らざる本音である。
理由は、答えが常に一つに安定しているからだ。
理数系科目を得意としているが、国語のテストも嫌いではない。小説の解釈なんて人それぞれだろうと言う人間もいるが、学校のテストに限って言えば、その見解は的外れだと思う。与えられた数式を、ある一条件においての解を求めるのが数学であれば、与えられた文章を、出題者の誘導に沿って解を出すのが国語だと言える。要するに、使われているのが数字あるか、言語であるかの違いがあるだけで、試されていることは同じなのだ。
だが、現実は不条理に満ちている。
人の数だけ答えがある中で、自分の答えを出せと言われても、アスランは戸惑ってしまう。やるべきこと、自分に求められていることが明確になっていれば、こんなに悩まなくて済むはずなのに。
これから、アスランはカガリとどのような関係を築いていけば良いのだろう。
自分の中の欲望を、カガリが受け止めてはくれないことが分かっている。押し付けて、彼女の平穏を奪いたくはない。
けれど、本当は分かって欲しい。傷つけたいわけではなくて、許して欲しいのだ。
「アスラン! 遅れてゴメン!」軽快な足音と共に、カガリが教室に駆け込んできた。
「……大丈夫だよ」
いつもと同じ遣り取りである。
だが、いつもどおりを装っているだけなのは、アスランの心がよく知っている。心は誤魔化すことができないのだ。
しかし、カガリを想うと、このまま騙し騙し『幼馴染ごっこ』を続けて、時間を稼ぐことしか思いつかない。それは心を麻痺させる作業だが、カガリとの決別と秤に掛ければ、致し方がないことだ。
カガリも、二人の間に横たわっているわだかまりに気がついているようだった。その気まずさを誤魔化すように、一瞬の間を恐れてアスランに話しかけている。
(ごめん、カガリ……)
こんなにカガリに申し訳なく思っても、感情と欲望を切り離すことができない自分が、情けなかった。
そうして、アスランは、自分を責めるばかりだったが、帰りの電車に乗ろうとした時、桃色の髪をした少女がプラットホームで電車を待っているのに出くわした。
「あ! ラクス!」カガリが手を振る。
ラクス・クラインは、二人と同じ二番ホームにいた。
初対面に近いラクスに対して親しげな様子であったが、元々、カガリは人懐っこい性格をしているから、そのせいだろうとアスランは思った。その余裕が崩れたのは、ラクスの次の台詞だった。
「カガリ! 今、お帰りですか?」
――カガリ?
馴れ馴れしくカガリを呼び捨てにしたのが、アスランの気に障った。
カガリが、そう呼ぶように言ったのなら分かる。だが、この二人は出会って二回目であるはずだ。
つい、じろじろと不躾な視線になってしまったのだが、ラクスはアスランにふんわりと笑んで見せる。それがまた、なんとなく気に入らない。
「お二人は、草薙ヶ丘方面ですか? わたくしは、エターナル臨海公園方面ですの」
三人がいる二番ホームは、臨海線と呼ばれる電車が、互い違いになって両側に停車するようになっている。ラクスの家は、アスランたちとは別方向にあるようだった。
「うん。ラクスはどうしてこんなに遅いんだ?」
「留学する前に半年だけ所属していた合唱部に、もう一度入ろうかと思いましたの。カガリは?」
「私も部活。ソフト部なんだ」
カガリとラクスは、アスランを置き去りにして話し始める。
手持ち無沙汰な時間を、二人の会話を隣で聞きながら過ごしていると、カガリが言った。
「あ……。お昼は、ごめんな。あんな話して」
「いえ、そんな……」ラクスは言いよどんで、ちらりとアスランの方を見た。それが、アスランを邪魔者のように扱っているように見えて、心をざわつかせる。
いつも一緒に昼ご飯を食べている女子グループの中に、カガリがいなかった。それから気にして見ていたが、時々カガリは何かを考え込むような仕草を見せていて――
「昼って?」
何気ない風を装って、探りを入れる。
「いや、何でもないぞ! 大したことじゃないんだ! うん!」明らかに何かある様子を見せながらカガリが言う。
動揺しているカガリとは対照的に、ラクスは相変わらず微笑んでいて、何を考えているのか分からなかった。
(俺に言えないようなことなのか?)
ラクスとカガリの間に、二人にしか共有できない何かがあるのは、確かなようだった。恐らく、その何かとは、アスランがカガリとの十年以上の付き合いで築いた絆には及ばない、ほんのささやかなものだ。だがそれは、カガリと距離ができてしまったアスランを焦らせるに、充分なものだった。
――ラクスのことをずっと考えてしまうんだ。
アスランはそれを、憧れと恋情を勘違いしているだけだと一蹴したはずだった。
しかし、今のアスランは、カガリがラクスに抱いている感情が、本物である可能性を危惧している。
アスランは、一度悩み出すと、周りが見えなくなってしまう。
電車が来て、ラクスと別れてから、カガリは一生懸命アスランに話しかけようとしていたのだが、押し黙るアスランに会話の糸口が掴めず、溝は深まるばかりであった。
モドル≪ ≫ススム
【あとがき】
アスカガ定理とは、
A×C=(無人島+あかつき)×あの日無くしてしまった恥ずかしさ×ファザコン×ストイック×生きる方が戦い×すれ違い∞=AC,CA
それにしても、やはりラクスが電車に乗っているのは、激しく違和感を感じる。ラクスが、もし日本に住んでいたら、芦屋とか、白金に住んでいそうだな……。