※アスカガ・パロディ・'11クリスマス
『炭素同素体』

　――『ダイヤモンドは永遠の輝き……』

　アスランがそのキャッチコピーを耳にしたのは、リビングでカガリと一緒にテレビを観ている時のことだった。
　二人は、地上波初登場の大ヒット・アクション映画を観ていた。
　爆弾を大量に所持したテロリストが平和な街を襲う。そしてテロリストと対峙するのは、偶然そこに居合わせた退役軍人である。彼は、過去に特殊部隊に所属していたが、職務中に恋人がテロの巻き添えを喰い、その悔恨から辞職。実は、今回のテロリストは、その時に逃がした因縁の相手で――と、判を押したかのように、オリジナリティに欠ける設定である。
　あまりにご都合主義な展開に、アスランは欠伸を噛み殺した。
　一方、単純なカガリは、主人公が危機に陥る姿をハラハラしながら見守っている。既に映画に対する興味を失っているアスランにとっては、一人で百面相をしている彼女を見ている方がよっぽど面白い。
　退屈なストーリーの終わりを阻むかのように、小刻みに入るコマーシャルが鬱陶しいが、トイレに立ったり、飲み物を取りに行ったり活用していると、件の有名な宝飾品店のコマーシャルも流れたのだ。

　女性の胸元には、シンプルなデザインのネックレスが輝いている。何人も冒しがたい清廉な輝きを放つ石は、ダイヤモンドである。それは、彼女の夫らしき男性から贈られたもので、鏡でネックレスを着けた様子をチェックする女性を、愛しげに見つめている男性が映ったところでストーリーは終わる。
　そして、黒い背景にダイヤモンドが煌めく映像に、『ダイヤモンドは永遠の輝き』というキャッチコピーが被さるのである。

　アスランは、それを見て、消費者たる視聴者に、間違った知識を植え付けていると感じた。
　コマーシャルなのだから、消費者の購買意欲を煽るために、誇張表現されることは、よくあることだ。彼は、そのカラクリを見透かしては、いつでも醒めた目で眺めていた。

（ダイヤモンドは世界で最も硬い物質と言われるが、決して不滅とは言えない。
　炭素の同素体、平たく言えば結晶の構造が違う炭素であるから、当然燃える。勿論、ガスバーナーのような弱い火力では無理だろうが、人工的に高温の熱を加えてやれば、燃焼する。しかも、炭のように不純物が含まれておらず、純粋に炭素のみで出来ているから、燃えると酸化して二酸化炭素となり、後には何も残らない。
　更には、衝撃を加えてやれば割れる。天然の物質で最も硬いと言われているのは、硬度が最も高いという意味であり、即ち傷付きにくいということだ。傷付きにくいが、逆に靭性が低いために衝撃には弱く、壁開する。この壁開面を利用して加工するわけだから、割れるのは当然のことだ）

　そこまで考えて、ふと、知り合いの離婚式に参加した時のことを思い出した。
　式では、最後の共同作業とばかりに、結婚指輪を金槌で割る。その時、割れた指輪の周りに飛び散った透明の粉末は、恐らく、指輪に嵌め込まれていたダイヤモンドだった。
　永遠の愛を、指輪の石に託して誓ったはずが、皮肉なことに、石諸ともに割れてしまったわけだ。
（馬鹿馬鹿しい）
　アスランは、興醒めとばかりに、心の中で嘆息した。

　が、そんな空気を吹き飛ばすような、邪気のない声が隣から聞こえてきた。
「……きれい……」
「え？」
　テレビ画面には、先ほどのコマーシャルのロングバージョンが流れている。それを見つめるカガリの瞳には、憧憬の色が浮かんでいた。
「――ああ、うん。そうだな……」
　アスランは、彼女の生き生きとした横顔を見つめてそう言った。



　数日後、宝飾店に来た客の中に、珍しい紺色の髪に緑の瞳をした男の姿があったという。彼は、ダイヤモンドのネックレスを購入し、クリスマスプレゼント用の包装を頼んだのだとか……。















【あとがき】
携帯から投稿したものを、幾分か改稿しました。

前にテレビで見たんですが、ダイヤは、摂氏900～1000℃ぐらいで石炭みたいに赤くなって、暫く煙が出ていたと思ったら、気化して無くなってしまいました。

[24回]