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※アスカガ・オリキャラ視点・戦後IF
『サマータイム』





04.

 オーブ国立博物館は、国が管理している公園の敷地内に建っている。
 公園が開園して間もない頃だったから、およそ午前九時過ぎに、僕らは国立博物館に入館した。
 『国立博物館』という響きによってか、僕はどうも勘違いしていたらしいのだが、オーブの国立博物館には自然史系と人文史系のスペースが併設されていた。おかげで思いの他、博物館を楽しむことが出来た。
 美しく大きな羽を広げた蝶の標本があったり。オーブの植生を模して、水辺に淡水魚を泳がせていたり。
 それらの展示ケースを眺め歩いて、二時間程経った頃、僕達は昼食をとるために、一旦館内から出た。博物館のレストランの中でも食事は出来るはずだが、父は公園内の屋台で売っているファーストフードを買って食べることにしたらしい。
「あれ? あさはあんなのなかったよ?」
 開けた場所に、小さな簡易ステージが設置され、この国の言語で書かれた横断幕が張られている。
「あそこで、セレモニーを行うんだろうな」
「えらいひと、くるの?」
「そう。偉い人が来るんだ。後で覗きに来ようか?」
 行きたくなかったので首を横に振ったが、父は僕の方を見ずにじっと横断幕を眺め、暫くすると、僕の手を引いて屋台に並んだ。
 父から手渡された包みには、半円状の薄い皮に、刻んだキャベツとトマト、そして暖かい肉が挟まっていた。この肉の取り分け方が面白くて、棒に突き刺した肉の塊を、歯が波状になった長いナイフでこそぎ落とすのだ。
 僕達は、空いているベンチを見つけて腰を掛けた。
「かわったサンドイッチだね」
「ケバブというんだ。おいしいぞ」
 かぶりついてみると、中のシャキシャキした野菜の歯ごたえと、下味の付いている肉汁が少し酸味のある白いソースに交じり合うのが堪らなかった。
「おいしい!」
 父と目を合わせて、にっこりと微笑む。
 父も自分の分のケバブにかぶりついた。父の一口は僕より大きくて、パンに大きな穴が開いている。穴から覗いている具を見ると、父のケバブには、赤いソースがかかっていた。
「こっちも食べてみるか?」
 じっと見つめていると、父が僕に一口くれた。ちょうど肉のところを貰うと、トマトソースのような酸味が口に広がった。
 が、その一拍後には、口腔に痛みが走った。
 慌ててジンジャーエールを流し込むと、炭酸が喉に沁みて咽こんでしまう。ヒリヒリとした熱い痛みが舌に残り、熱を冷ますようにふうふうと息を吐いた。
「お前には、少し刺激が強すぎたかな」
 ニヤニヤと父が笑った。父はこうして、僕のことを馬鹿にして笑うことがあった。僕はそれが気に入らなくて、拗ねたり、腹を立てたりしていたものだが、父は全く取り合ってくれない。父には全く悪気がないのだ。むしろ、僕の子供染みた反応を、微笑ましいと思っている向きさえあった。
 この時も僕は文句を言いたかったけど、舌が痛くて「からひ……」と掠れた声しか出せなかった。
 

 簡単な昼食を終えて、今度は人文史系の展示スペースへと脚を運ぶ。先ほどの自然史系のスペースよりも、照明が少し落としてある。このスペースには、自然光が入ってこないのだ。
 土器などの細々した展示品の奥に、一際大きな展示ケースがあり、中には岩が飾られていた。岩にはペトログリフが彫られており、その陰影が目立つように上からライトが当てられている。
「ねえ、これなに? もようがほってある」
「昔の神殿の一部だ。この模様は、オーブの神話が描かれているそうだよ」
「ふうん……。ねえ、なんてかいてあるの?」
 岩には、抽象的な模様が彫られているだけである。僕には、それが子供の落書きにしか見えなかったが、神話というからにはお話になっているのだろう。
 父は「うーん……」と言いながら、僕の知らない単語が沢山含まれている説明を読み始めた。

「世界が生まれた時、その姿は混沌としていた。辛うじて天と海だけがあったが、酷く荒れ果てていた。
 やがて、混沌の渦から神が生まれた。その中でも強いマナを持った、始まりの神ハウメアと、終わりの神カナロアは、混沌とした世界を整然とすべく、始まりと終わりを繋げることにした。
 二柱の神が交わると、光と闇が別れ、昼と夜が出来た。光が差すと、雷雨は止み、海は凪いだ。
 だが、カナロアの力のせいで、ハウメアの肉は裂かれ、散り散りになって海へと放り投げられてしまった。
 マナを宿しているハウメアの肉は、小さなものは珊瑚や魚となり、大きなものは大地となった。また、大地からは様々な命が生まれた。
 ハウメアの死を嘆いたカナロアは深い海へと潜り、根の国の主となった」

 こんとんとか、マナとかよく分からない言葉が沢山あったが、僕が最も気になったのは違うことだった。
「ハウメアしんじゃったの?」
「そうみたいだな……」
 なんてシュールな話なんだと思った。でも、前に絵本で読んだギリシャ神話も、かなり血なまぐさい話があったから、神話には神殺しが付き物なのだろう。
 突き当たって左側の展示ケースにも、同じような岩が飾ってある。
「さっきのと、おんなじ?」
「いや、今度は人間が出てくるみたいだぞ」
 父が、説明を読む。

「マカリイという一人の若者がいた。若者は、ホク・ウラの赤い光に導かれて、仲間と共にカヌーで旅をし、とある島に辿り着いた。そこはハウメアが残した大地の中でも、最も強いマナを宿したパリウリであった。
 島には一人の娘がいた。娘は自らをハウメアの娘と名乗り、偉大なマナを持っていたマカリイを歓迎した。
 マカリイと娘は惹かれ合い、夫婦となった。マカリイ達は、仲間を呼び寄せ、島には人が増えていった。美しい島の評判を聞きつけて、他の土地からも多くの人が移り住むようになった。
 だが、その一方で、島を簒奪しようとする悪しき者達も現れるようになった。マカリイは勇猛果敢に戦い、これを退けた。島の人々はマカリイの武勇を称え、彼を島の長に奉り、崇めた。
 しかし、どんな偉大な英雄にも、死は訪れる。マカリイは死の床で五人の子供達を呼び寄せ、後を託すと、静かに事切れた。
 娘はマカリイの死を嘆き、外へ飛び出した。走って走って疲れ果てると、膝を抱えて泣き腫らした。すると、娘の身体は大地へと帰り、その姿は大きな山となった。そこから、火山の神ペレが生まれた」
 
 英雄が国を救った所で終わっていれば良いのに、その最期まで物語を紡ぐのが神話らしい。死ぬ命があれば、生まれる命もあり。運命は、神も人も等しく飲み込み、悲喜交々全ての感情を今と繋げる。
 僕は、子供の無邪気さを装い、子供ならではの残酷な質問を父に浴びせた。
「どうして、むすめはこどもたちをおいて、やまになったの?」
 案の定、父は困っている。僕はそれで少し溜飲を下げる。
 父からは、『お前のお母さんは、遠い所にいる』と聞かされていた。幼い僕にも、それが『死んだ』という事実の比喩であることは分かっていたから、僕に母親がいないのは仕方がないことだった。
 それでも、なんとなく可哀想な自分に浸りたくなってしまって、こうして大人を困らせてみることがあった。その犠牲になったのは、主に父である。
 父は、苦し紛れにこう言った。
「子供達も、もう大きくなっていたんだろう。大人だから、親がいなくても大丈夫だったんだ」
「ふうん……」
 一人で何でも出来る大人になれば、寂しくないのだろうか。子供の僕は、そう考えた。
 ――しかし、大人になった今なら分かる。残念だが、大人になっても寂しさは消えない。
 だが、色々な経験を経ていくうちに耐性が付いて、寂しさを我慢できるようにはなっている。それを、強くなったというべきなのか、鈍感になったというべきなのかは、未だに分からないけれど。


 その部屋の展示品を見終わったので、順路に従って隣の展示室へと移動した。
 隣の展示室は広くて、見るものが沢山あった。父は律儀に一つ一つ眺めていたが、次第に僕は退屈になってきた。
 ふと周りを見渡すと、大きな甕の展示ケースの前に、セラミックで出来た土器のパズルがあった。このケースの中に入っている土器を見本にして、組み立てるらしい。
 僕は向かって左から順番にやってみた。全て並べ終えたので、見てもらおうと、父を呼びに行く。
「おとうさん!」
 と、父の脚に抱きつく。反応がないので、不思議に思って見上げると、ビックリした男性の顔が目に入った。それは、父とは全く似ても似つかない男性の顔だった。
 服の色が似ていたので、間違えたのだ。
「ご、ごめんなさい……」
 謝って、男性から離れる。
 辺りを見渡しても、父がいない。僕は、とりあえずこの展示室の中をぐるりと回ってみたが、父は見当たらなかった。


「……たいへんだ。おとうさんがいなくなった……」






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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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