プロローグ


　機内は空気が乾燥していて、喉が痛い。ドリンクホルダーのミネラルウォーターを手に取り、一口だけ口に含んだ。
　半日近くもある時差を考えれば、寝るべきだとは思うが、眠気がさっぱり降りてこない。

　暇を潰そうにも、買っておいた新聞は、既に訃報欄まで目を通してしまった。窓の外は、だだっ広い雲海が広がっているだけで、何の面白みもない。
　座っている以外にすることがないのに、僕には時間だけが与えられていた。

　時間は、僕の記憶を掘り返し、物思いに耽らせる。



　僕は、幼い頃に一度だけ、誘拐されたことがある。

　こう言うと、大抵、誰もまともに取り合ってくれないが、これは本当に、僕の身の上に起こったことだ。
　何分、幼い頃のことなので、記憶があやふやな部分もあるが、僕は確かに誘拐された。

　僕が誘拐されたのは、父とオーブへ旅行した時のことだった。






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[3回]