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※キラとアスラン(キラフレ・アスカガ)・SF(=すこしふしだら)
『Bark At The Moon』


※キャラが「馬鹿だもん☆」になってますが、気にしない方だけどうぞ※





 夜空に二つの月が浮かんでいる。ちょうど、西と東に一つずつ。
 僕は、二つの月が照らす明るい夜道を、ひたすらに走っていた。
 夜が明ける前に、彼女に会いに行かなくてはと、心が急いているのだ。今の僕を突き動かしているのは、彼女が欲しくて欲しくて堪らないという焦燥と、彼女も僕を待っているのではないかという自惚れだった。この衝動は、身体中を食い荒らさんとばかりに暴れ周っていて、ともすれば、恥も外聞もなく叫び出しそうだ。
 ――いっそ吼えてみようか。あの月に向かって。
 そんな埒も無いことを考えながら走っていると、ようやく彼女の家が見え始めた。
 だが、見え始めてからが遠かった。余計に距離が長く感じられて、脚が縺れそうになる。
 僕は、勢い余って扉に張り付くようにして、玄関に辿り着いた。
「フレイ! 僕だ、キラだよ!」
 扉を蹴破りたい気持ちを宥め、彼女の応答を待つ。
「……キラ? キラなのね? 遅いじゃないの。私、待ってたのよ」
 甘たるく甲高い声は、切なさを表すように震えている。
 ああ、なんて甘美な音色だろう。あのプライドの高い彼女が、泣きながら僕を求めているなんて!
「フレイ!」
 扉を開けると、彼女は所在なさげに立っていた。泣き濡れた顔が、月の光に照らされ、ぞっとする程白い。長い睫毛が水気を含んで束になり、小刻みに震えているのを目に止めた時、僕はもう堪らなくなって、彼女の背を掻き抱いた。
「あ、キラ……!」
「フレイ……、フレイ……」
 頑是無く、それしか知らぬ子供のように彼女の名を呼ぶと、彼女も同じように僕の名を呼んでくれた。
 頼りない薄いワンピースの下にある女の柔らかい肉を思って、熱が上がる。そうして、泣いたために赤く腫れてしまった唇を懸命に吸いながら、彼女を組み敷こうとした時――

 スパーン!

 と、後頭部に衝撃を感じた。そのまま前のめりになり、フレイの顔に頭突きをかましそうになったが、彼女の顔を通り抜けて、僕は床に倒れこんだ。
「い……った!」
 咄嗟に床に手を付いたので、直撃は免れたが、それでも擦った鼻の先が痛んだ。
「何!? あ、あれ? アスラン?」
 ふてぶてしく腕を組んだ男が、部屋の明かりを背にして仁王立ちしている。彼とは幼馴染で、互いの部屋に許可無く入るような仲だから、今日も勝手に入ってきたのだろう。
「先程から、ずうっと呼んでいたんだが、お前は相変わらず、現実逃避が好きらしいな」
 そう言われて、耳の上に手を当てると、先ほどまであったゴーグルの感覚がない。辺りを探すと、床にころりと転がっていた。さっき、アスランに後頭部を殴られた衝撃で、吹っ飛んでしまったようだ。
「もー! 壊れたらどうするのさ!」
 僕は、ゴーグルを拾い上げた。ゴーグルは長いケーブルと繋がっていて、ケーブルの先っぽには黒い端子が付いている。この端子を本来はコンピュータに繋げて使うのだが、さっきの衝撃で抜けてしまっている。


 このゴーグルの正式名称は、仮想現実再現装置という。脳が思い描いた映像、音、味、皮膚感触などを、膨大な演算能力によって再現し、再びの脳に情報として送り込み認知させる装置だ。
 現実とは、脳の認知能力によって成り立っている。つまり、脳で感じ取ったものが現実なのである。よって、辛いものを食べて辛いと感じることも、真夏の太陽の暑いと感じることも、脳の中で再現することができる。
 即ち、恋愛もセックスも再現できる。
 恋愛やセックスで得られる興奮、多幸感、快感は、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンという脳内物質によるもので、つまりは脳がそう感じているだけなのである。
 人は誰しも自分一人の、しかし実在しない恋人を持っているものだ。もし、自分が思い描く通りの恋人ができたなら……。人は皆、恋愛に関するありとあらゆるコンプレックスから開放され、気軽に恋愛を楽しめるようになるはずだ。
 しかし、人間の認知能力というものはかなりいい加減なもので、ある程度外部からのデータよって想像を補強してやる必要がある。想像を具体的な形に固定化することにも、センスが必要なのだ。そのため、情報を補強するソフトがいくつか開発された。コンピュータ内にインストールしたソフトの情報と、自分の脳内の想像を組み合わせることによって、よりリアルな再現性が可能となった。
 なんとなく恋人が欲しい、けれど、具体的なプランはない。
 そんなニーズに応えたのが、サブカルチャーに関しては、国民の大多数が命をかけていると言っても過言ではない某国にて開発された、恋愛シュミレーションソフト『電脳的恋愛』――略して、電恋だ。
 恋愛と性愛は切っても切れない関係にあるから、電恋は十八禁ソフトである。但し、成人した人の中にも、性に関して嫌悪感のある人も多いから、プラトニックな展開も選ぶことができる。
 電恋には、大方の人格パターンが組み込まれているが、どこか自分の理想ど真ん中というわけにはいかなくて、僕は独自に改造することにした。試行錯誤の果てに生まれたのが『フレイ』で、今夜も僕達は逢瀬を楽しんでいたというわけだ。



 アスランは僕の手からゴーグルを取り上げ、デスクの上に置く。こちらを見据える彼の顔には、眉間に深い皺が刻まれていた。――ああ、これは彼がお説教をする時の顔だ。
「お前が一つのことに、のめり込みやすい性格なのは知ってるが、仮想現実にのめり込み過ぎるのは良くないないぞ。ましてや、電恋は――その、健全とは言い難いソフトだし……」
「いや、妄想だからこそ、健全なんだよ。身体は汚れないしね」
「DTが、何偉そうに言っているんだ」
「だまらっしゃい! このハイ・ウェスト野郎!」
 ズボンのウェストを、思い切り上に引っ張り上げてやる。油断していたアスランは、その攻撃をもろに喰らい、「ああっ! (前が)擦れる! (後ろが)食い込む!」と気色の悪い声を上げて悶絶した。
 鼻を鳴らして、手を離してやると、向こうは猛然と怒鳴ってきた。
「何するんだ! この馬鹿野郎!」
「アスランさあ、そんな正論ばっか言ってるけど、本当は羨ましいんじゃないの?」
「なんだと……?」
 癇に障ったらしく、端整な顔立ちに、静かな怒りを滲ませている。
「これ」
 見てみて、と雑誌を差し出す。
「これが、どうしたっていうんだ?」
 アスランは、受け取った雑誌を、素気無く突き返した。
 そう、これはなんてことないグラビア写真だ。長い金髪の女の人が、パンツ――それも、ただの紐にしか見えないデザインのパンツだけを身に着けている。
「ここをよく見て」
 僕は、メロンのように大きい胸の中央を指した。そこには、ピンク色の小さな星があった。
「……それが?」
「君は、何故この星がここに配置してあるのかと、考えたことはないかい? 隠されれば、見たいと思うのが人の性だ。見てしまったら、触りたくなる。触ってしまえば――」
「あ、待った! それ以上は口にするな!」
 全く、お堅いことだ。だが、ここは素直に従っておくことにした。
「尽きることのない欲望に、僕達は一体どう向き合えば良いんだろうね。確かに欲望こそが、人類の生活を豊かにしてきたといっても過言ではないだろう。でも、だからといって、どんな欲望でも許されるわけじゃない。往き過ぎた欲望は、セーブされるべきなんだ。痴漢、強姦、児童ポルノ……嘆かわしいことだが、それらは、本来秘められるべき欲望がオーバー・ランしてしまった結果だ。他人を傷つけたり、自分が法的に罰せられる可能性があったりしても尚、抑えきれないような欲望を、電恋であれば、人知れず上手く発散することが出来るんじゃないだろうか」
「まあ、一理あるかもしれないが……お前、そんなアブ・ノーマルな欲求を抱えているのか?」
 ……一応、念のために言っておくけど、僕の性癖は至ってノーマルである。そりゃ、いつかはフレイと【アッーー】や、【ピーーー】や、【禁則事項です。】などを試してみたいと思っているけど、まだ付き合い始めだしね。
 それよりも、アスランが話に食いついてきたので、しめしめと思った。頑固なくせに、アスランは育ちが良いからか、他人の話に耳を傾けてしまう素直な所があるのだ。
 そこで、僕は一枚の写真を取り出した。
「こ、これは!?」
 写真の中の金髪の女の子は、白いビキニを身に着けて、健康的な美しさを振りまいている。彼女の名前は、カガリ――僕の双子の妹だ。
「何故、お前がこんなものを持っている!!」
「今年の夏、家族で海に行った時の写真だよ」
 このビキニは僕が選んだ。彼女が新しい水着が欲しいというので、アドバイスに乗ってやったのだ。
 選んだポイントは、まず、白という色が良いと思った。白という色は、透けてしまうのではないかという危なさで以って、男の妄想を暴走させてしまう。実際はインナーを着けているため、透けることはないらしいが、妄想するのは自由であろう。
 さらには、この面積の大きさも決め手だった。出し惜しみをしていないが、かと言って、下品というほどでもない。伸縮性のある生地が、頼りない紐によってピンと引っ張られているのが、カガリのはじけそうな肢体を強調している。
「……な、なんていう水着を着ているんだ……けしからん、実にけしからん……」
 呻くような声で、アスランは呟きを漏らした。
「気に入らなかった? これでも海水浴場では、随分男に人気があったんだけどな」
「おい!」
「大丈夫だよ。僕と一緒にいたから、誰も声を掛けてくることは無かったよ。じろじろ見られてただけ」
「じろじろって……」
「つい、目が行っちゃうってこともあるんじゃない? 見る分には自由なんだからさ。勿論、それを見て何を考えるかもね。例え、口にするのも憚られるような妄想を、頭の中で張り巡らせていても、それを実行しない限りは、犯罪にはならない」
 アスランは、僕を射殺しそうな程鋭い目で睨んだ。カガリが好きなアスランとしては、まっことけしからんことなのだろう。
 しかし、僕は事実を言ってやるのだ。
「男は皆、妄想の中ではDTじゃないんだよ」


 と、そこでドンドンとドアを乱暴に叩く音がした。
「おい、キラ! うるさいぞ!」
 ドアの外から、少しキーの低い女性の声がする。
「……カガリ?」
 アスランが呼びかけると、ドアが開いてカガリが顔を出した。
「あれ? アスラン来てたのか。二人で何騒いでんだよ」
「……あ、いや……その……」
 しどろもどろになっているアスランを、カガリは不思議そうに見ていたが、アスランが手に持っているカードに気が付いた。
「ん? それ……」
「あ! い、いや、これはっ!!」疚しさから、アスランは慌てて写真を仕舞おうとする。
「なんだよ、見せろってば」
 だが、カガリが写真の内容を確かめる方が速かった。
「なんだ、海に行った時の写真じゃないか。懐かしいな~。写真見てたのか?」
「あ、うん……そう、そうなんだ。今年の夏、海行ったって聞いたから、見せてもらってた」
 カガリはアスランの手から写真を受け取り、少し眺めていたが、何かを思い出したように顔を上げた。
「キラ、他にもあるか? 皆で撮ったやつとか、あった筈だけど、見るの忘れてた」
「あるよ」
 カガリの要望に応えて、プリントアウトした写真をいくつか出してやる。
 二人で思い出話をしていると、一緒に行っていないアスランが話題についていけない。カガリが、一人ぼっちになっているアスランに気が付いて、話しかけた。
「アスランも、行けたら良かったのにな。今度は一緒に行こう」
「海も良いけど……スノーボードとかにしないか? もうすぐシーズンだしな」
 さしずめ今のアスランの心境は、水着を着たカガリは見たいが、そんなカガリを他の男に見せたくないといったところだろうか。
「行きたい!」
「じゃあ、冬休み、(二人で)一緒に行こう」
「うん。(皆で)一緒が良いよな」
 決定的なすれ違いをしつつも二人は約束を交わし、写真を見終わったカガリは、自分の部屋へと帰って行った。


「アスランも予行練習が必要だね」
「何の予行練習だ?」
「何のって、ナニだよ。二人で旅行に行くんでしょ?」
 二人のすれ違いに気が付きながらも、わざわざ指摘してやるつもりはない。
「……まだ、泊まりって決まったわけじゃ……」
「一日滑ったぐらいじゃ、慣れた頃に帰らなくちゃいけないよ」
 何言ってるんだよ。最初っから、その気だったくせに、変に格好を取り繕うとしちゃってさ。
 でも、アスランにそのまま言うと怒られるので、搦め手から攻めてみる。
「……む、そうか……」
 しぶしぶといった感じで、アスランが頷いた。
「だから、さ。予行演習しておいた方が良いって。だって、男がリードしてやらなきゃ、格好がつかないでしょ? DTだと女性の身体がどうなってるのかも判んないし。参考書や参考動画を見ても、肝心な所が写ってないんじゃ意味ないからね」 
 そう。そのために電恋はあるのだ。いくら想像力を働かせたところで、見たことがないものを再現できるわけがない。
 恋愛にコンプレックスを抱いている人間には、恋人いない歴=自分の年齢という人も多いだろうしね。
「幸い、ここにカガリの裸に最も近い画像があるし、君はカガリのことをよく知っている。初期設定の段階で、カガリの容姿や性格パターンを入力すれば、かなり本物に近くなるんじゃないかな。きっと、本番でも慌てなくて済むよ」
「……いや……しかし……だが、しかし……」
 アスランはちらちらとカガリの写真を眺め、「駄菓子菓子、駄菓子菓子」と口の中で繰り返していた。


 
 僕は、そんなアスランを他所に、窓の外を眺めた。さっきまで東にあった月が、大分高く上っている。
 あちらでは月が二つ出ていたが、東にあった月は現実世界(こちら)のものだったのか……。
 仮想現実と、現実は地続きになっていて、どんなに理想をリアルに近づけたとしても、脳という記憶装置は誤魔化すことが出来ず、人は現実と妄想の矛盾に耐えられなくなるのだ。
 そのため、どんなに仮想現実を思い通りにしたくても、自分という存在が異分子となり、結局は現状とさほど変わらないことになる。おそらく、あの月は仮想現実が綻び始めている兆候だったのだろう。
 Cry for the moon. ――やはり、無いもの強請りでしかないのか。
 いや、まだ可能性はある。僕は、近いうちに、仮想現実の中から現実を操作することを試みるつもりだ。
「アスラン。今日はもう遅いから、帰ったら? 写真はあげるし、電恋の改良版が欲しいなら、今度コピーしてあげるよ」
「いや、やっぱり電恋は要らない。ヴァーチャルでは、意味がないんだ。本物じゃないと」
「……そう」
 そもそも、ヴァーチャルが本当かどうかは、実体験で確かめるしかないしね。
 それに、電恋のデータも、他人の認知能力を借りているのだから、同じものを再現したつもりでも、自分の認知とは異なっている可能性が大きい。
「……でも、写真は有難く頂いていく」
 アスランはそう言って、大事そうに、カガリの水着写真を服の胸ポケットに入れた。
 結局、妄想するんじゃないか。アスランの月(ねがい)は、手に届くところにあるのだから、手を伸ばしてみれば良いのに……。
 僕の月は手が届きそうになく、今はまだ、月に向かって吼えることしかできない。













【あとがき】
もとは、中編にしようと思っていたのですが、誰も(作者ですらも)特をしない設定なので、短編にしてみました。





 

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いつかは、サイトになるはず……

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