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※アスカガ大学生パロ(現代日本風・幼馴染)
『プレゼント ~ From Cagalli To Athrun ~』 おまけ1
「まだ、嫁にはやらんぞ」
それは、アスランの右隣から聞こえてきた。
つい、そちらを見てしまってから、アスランは「しまった」と思った。
周りを見れば、双子も二人の母親も、アスランが零した味噌汁を拭こうと、タオルやティッシュに布巾と、それぞれ拭く物を取りに席を立っている。つまり、それはアスランにだけ聞かせるために言われた言葉だったのだ。
――気がつかない振りをしておけば良かった……。
後悔先に立たず、である。
大学院を卒業して、自分で生活できるようになったら、同棲と婚約。いや、できれば結婚の挨拶に来ようと思っていたのだが……
「あの、まだ先のことですので、その話はまた追い追い……」
「『追い追い』? では、君は覚悟もなく、カガリに手を出したのかね?」
「……え? あ、あの……?」
――なんで、そうなる!?
アスランは唖然とした。
アスランのうろたえを見て取ったカガリの父親は、ふんと鼻を鳴らした。
「まあ、そういう軽いつきあいだということだな。今時の若者らし――」
「俺は、真剣です!」
誰であろうとカガリへの気持ちを軽ろんじられるのは、我慢がならなかった。
どうしようもなくカガリを求めてしまう。この胸の苦しさは、アスラン以外の誰にも分からないだろう。――きっと、当のカガリ本人にさえも。
が、叫んでからアスランは後悔した。
うっかり失念していたが、ここは、ヒビキ家のダイニングなのだ。皆、アスランがいきなり大声を出したので、驚いている。
「な、なに? どうしたの?」キラが訊ねた。
「あ……、い、いや……」
焦ったアスランは、マガジンラックに入っていた雑誌を目にして、思いついたことを言った。
「今年の龍王戦、誰が勝つかな~、と思って……。それを小父さんと話し合っていたら、つい熱くなっちゃって……」
「アスラン、将棋やらないじゃん?」
「いや、将棋もチェスと同じようなものだし」
「取った駒が使えるのは、腑に落ちないって言ってたくせに……」
「~~~~ほら! 昔、キラも一緒に小父さんに教えてもらったじゃないか! たまにだけど、俺も暇な時に、対局の中継見ているんだ!」
「……ふ~ん」
なんとか、納得してくれたようだった。
アスランは、心の中で、『現代将棋』の表紙を飾っている『扇子王子』に礼を言った。
――今度の龍王戦は、扇子王子を応援しよう。……中継は見ないけど。
今まで特に何とも思っていなかったくせに、現金なものである。
アスランは自分でやると言ったのだが、双子と母親の三人は、「いいから、いいから」と言って、アスランの世話を焼いてくれる。それぞれが味噌汁を零したテーブルや服を拭いて、食事は再開された。
「最近、将棋人気だよね。漫画の影響もあると思うけど、大学のサークルも部員が増えたって」キラが、先程の話題から繋げて話を振った。
「お母さんは、やっぱりケイマ君が好きだわ~」
「扇子王子? 今、人気あるよね~」
母親とキラがそう言うと、父親は反駁した。
「駄目だ! あんな髪が長い奴は!」
父親の言は、アスランの心に付き刺さった。
――もしかして、俺の髪も駄目なのか?
アスランの髪は、長髪とは言えないまでも、他の男性に比べると若干長い。この長さしか似合わないので、子供の頃からこの髪型だったのだ。
「え~。そんな長くないと思うけど……」
「似合っているんだからいいんじゃないか?」
「ねー♪」と、双子が言い合っている。
――そうだ。そんなに長くない。それに、扇子王子もあの髪型が一番似合う……はずだ。
ロールキャベツに箸を入れながら、アスランはそう自分に言い聞かせた。
「アスラン君。天婦羅には何を付ける? お塩? お出汁?」母親が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「あ……、お醤油を……」
アスランは、揚げ物には醤油を少しだけかけるのが好きなのだ。
醤油差しに手を伸ばしたが、よく見ると、醤油差しが二つある。
「こっちが醤油?」
アスランが贈ったものに手を伸ばすと、カガリが頷いた。
「じゃあ、あっちはソースか……」
「ううん。あっちも醤油」
「種類が違うの?」
「ううん。同じ」
「え……?」
どういうことなのかと訊くと、実はアスランがプレゼントする前に、醤油差しを買い換えたのだと言う。
「あの醤油差しのせいで、お父さんのYシャツが一枚駄目になっちゃって……。これは買い換えないといけないなってことになったんだ」
と、いうことは、アスランのプレゼントはタイミングが悪かったということになる。
ブレスレットやネックレスにしておけば良かったな……と後悔した。実は、宝飾店なども見て回ったのだが、どうしても指輪に目が行ってしまい、そうそうに店を出ることになったのだった。――やはり、指輪は、いざという時の最終兵器として取っておきたい。
「私も、醤油を……」
と、父親がアスランの持っている醤油差しに手を伸ばすと、カガリが「駄目!」と言った。
「これは、私の! あ、でも、アスランは使っていいぞ」
使わせてあげれば良いのに……とも思うが、カガリが大事にしてくれているのが嬉しかった。
しかし、やはりと言うべきか、父親は落ち込んでいる。
それだけ、カガリは大事に慈しまれてきたのだ。
みんなに愛されるカガリを、自分のものにしたいと思う。そのわがままだけは、押さえることができない。
「ちゃんと大事にしますから……」父親だけに聞こえる声で言った。
カガリに対する責任から、アスランは逃げようとは思わない。それがカガリと共にいられる条件ならば、喜んで背負おうと思う。それが伝われば良いと思った。
「それにしても、アスラン君も、もう二十一歳なのねえ。あんなに小さかったのに、みんな大きくなったこと」
母親が目を細めて言うと、双子が照れくさそうに笑う。
その時、
「うう……!」という呻き声が響いた。
見ると、父親が目頭を押さえて嗚咽している。
「なんだよ、父さん。いきなり泣き出して~」と、キラが少し不気味そうにして言う。
「お父さんは、アスランがお気に入りだったからな。自分の息子みたいなアスランが大きくなって、嬉しいんじゃないか?」
カガリがそう言うと、「ああ~。そっかあ」とキラが返した。
――いや、違うって……。
この場で、彼の気持ちが分かるのは、恐らくアスランだけ。
その複雑な心境に、アスランは重い溜息を吐いた。
【目次】
【あとがき】
上手くまとまらなかったので、削った部分をリサイクルしてみました。
やっぱり、『飛車取り王子』にしておくべきだったかな……。
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