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※アスカガ夫婦パロ
『一日の終わりは、手をつないで――』 5
家に帰っても、会話は無かった。境界線を引くように、カガリはアスランに背を向け続けた。
仕方がない、とアスランは自分に言い聞かせる。それだけのことをしてしまったのだ。
しかし、寝床は同じなので、一日の終わりは顔を合わせなければならない。
カガリにとっては、つらいことかもしれない。だが、会話の糸口を見つけられないアスランにとっては、ダブルベッドにしておいて良かったと、過去の自分の選択に感謝をすることになった。
皺のない白いシーツに腰を下ろして、アスランはカガリを待つことにした。
汚れたシーツを新しいものと取り替えたのは、アスランだった。血痕を落とすのに、湯を使おうとして、カガリに窘められてしまったが……。しかし、そんな素っ気無い事務的な会話ですらも、嬉しかった。
寝支度を済ませたカガリが、寝室に入って来た。いつもより、寝支度をゆっくり目にしていたと感じるのは、アスランの自意識が過剰になっているからだろうか。居場所がないから戻ってきただけで、カガリはアスランとの仲を修復したいと思っていないのかもしれない。
カガリは、寝室で待ち構えているアスランに気が付いて、少し怯むような動作を見せた。――これが、カガリの答えなのだろうか。
アスランは、せめて自分の気持ちだけでも伝えようと思った。
「……カガリ。昨夜は済まなかった。俺が君にしたことは、決して謝って済むようなことではなかった。こんな未熟な俺が、『カガリを一生守る』だなんて、よく言えたものだよな。
もう、君は俺を許してくれないかもしれないけど、俺はまだカガリの夫でいたい」祈るような気持ちで、言った。
カガリは、アスランを静かに見つめていた。いつも豊かな表情を伝えてくれる瞳からは、何も読み取ることができなかった。
すると、カガリが歩き出した。
脚を動かす度に、寝巻きの裾から白い足首が見える。たよりなく見えるほど華奢な足首が、カガリの実体を危うく見せた。
そうして、アスランの前まで来て、「もう、遅いから寝よう……」と、カガリは言った。
彼女に乱暴を働いた自分の横で眠ってくれるのが嬉しいだとか、結局、自分の願いは彼女には通じなかったのだとか、ない交ぜの気持ちになりながら、アスランは、カガリのためにスペースを空けた。
できるだけ、カガリに気を使って触れないようにすると、カガリは腕に頬を摺り寄せてきた。それは、言葉に出して甘えることが苦手なカガリが、アスランに甘えたい時に見せる仕草だった。しかし、いつだってアスランは察しが悪くて、カガリを上手く甘やかしてはあげられないのだ。
「……どうした?」また、無粋にも訊ねてしまう。
「……てを」
「……て?」
「手を握って眠って欲しい……」
それは、最近は守られてはいなかったが、恋人時代からの二人の習慣であった。
「……守ってくれなくたっていいんだ。『絶対』なんて約束できないんだ。でも……
でも、一日の終わりは、必ず手を繋いで欲しい」
一回り小さな手を握る。今度は、彼女も握り返してくれた。
暖かい布団の中で繋いだ手が、じっとりと汗ばんだが、それでもお互いに手は離さなかった。
(ああ、そうだったな……)と、アスランはカガリと結婚した時のことを思い出した。
カガリと結婚したのは、彼女と離れたくなかったからだ。
友達よりも近い場所で繋がっていたかったから、恋人になった。だが、恋が冷めれば、二人は他人よりも遠い距離へと隔てられてしまうかもしれない。あるいは、このまま恋が深まり続けたとしても、いつか老いたアスランとカガリは、身体で繋がることができなくなるだろう。だから、家族になったのだ。
こんなに後悔したとしても、アスランはまたカガリを傷つけるだろう。そして、カガリもまた、アスランを傷つけることがあるだろう。アスランが生きてカガリの傍にい続ける限り、傷つけ合うことは避けられない。その真実に気が付かず、「守る」と誓ったアスランは、若かい故に傲慢だったのかもしれない。
傷つけ合っても、手を繋いで眠ってもおかしくない関係。それが、アスランとカガリにとっては、夫婦であるという誓約であった。
いつの間にか、隣からは小さな寝息が聞こえてくる。
アスランは、昼間よりも幼く見えるその寝顔を気が済むまで見つめて、ゆっくりと瞳を閉じた。
いつか永遠の眠りに就くその日まで、
一日の終わりには、隣に眠る君と手を繋いで――
モドル≪ 【目次】
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