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■ キーワード4 『鳥』
(運命45話以降。種デス後?)





 私が子供の頃、アスハの屋敷では、今よりもっと多くの動物を飼っていた。中庭の一角には、大きな鳥小屋があり、今はもう何もいないが、そこでは文鳥を飼っていた。
 彼らは人間に慣れていて、小さな羽根をたたんで、私の肩でも休んでくれた。
 幼くて、無知だったから、私は取り返しの付かないことをしてしまった。
 彼らを鳥小屋から出しておけば、中庭に面している私の部屋にまで遊びに来てくれるのではないかと。私はそう思って、特にお気に入りの白い文鳥を小屋の中から出した。
 彼は確かに来てくれた。明日もきっと来てくれるはずだと、期待に胸を膨らませて、その日の私は眠りに就いた。
 けれども、彼は次の日には来なかった。いや、正確には、彼は永遠に来れなくなったのだ。
 屋敷に忍び込んだ野良猫だろうか。彼は無残に食い殺され、彼の遺体の周辺には、白い羽と赤黒い血が散らばっていた。
 父は、泣く私の髪を撫でて、彼らは風切り羽根が切られているから、遠くに逃げることができないのだと説明してくれた。
 ――ごめんなさい。ごめんなさい。
 無知で愚かな自分が引き起こしてしまった事態に、私は咽び泣いた。そして、飼い主の都合で、彼らが思うが侭に飛べなくなったというおぞましさに、酷い吐き気を覚えた。
 この事件は、真白で無邪気な私の子供時代に、黒々と大きな染みを残した。鳥小屋の中の文鳥が、一羽残らず寿命で死んだ時、私は、もう代わりの鳥は入れてくれるなと父に頼んだ。
 それから、この大きな鳥小屋は、ずっと空のままだ。

 だが、愚かな私は、またも愚かな間違いを犯した。
 ディオキア、クレタで死んでいったオーブ兵たち。彼らは、自らの職務に忠実だっただけだ。愚かな私が死ねと命じた冷たい海に、彼らの遺体は眠っている。
 眸の奥で、白に浮かび上がる「あか」が明滅する。
 愚かな主は、鳥の風切り羽根を切って、愚かにも彼らの誇りと命を踏みにじることしかできないのだろうか。
 いいや。どうか、どうか。オーブの人たちが、世界中の人たちが、自分の飛びたい空を飛べるように。私は心の底からそう願っている。
 だからこそ、彼にもそうあって欲しい。
 ――なあ、アスラン。指輪は外した。もう、約束は無効だ。お前も、自分の行きたいところへ行けよ。お前は自由なんだ。
「オーブや私のことは、もう気にしなくていい。お前には、もっとお前を大切にしてくれる人がいるだろう? お前はちゃんと幸せにならなきゃ駄目なんだ」
 死にたがっていた鳥を助けた。彼はずっと私の傍にいてくれて、私の心を慰めてくれたけれど、本当はずっと飛びたい空があったはずだ。
「俺の幸せは、俺が決める。カガリが勝手に決めないでくれ。俺の夢は、カガリの夢と同じだから」
 ――ああ。この鳥は、己の意思で戻って来たというのだろうか。
 ずっと、籠の中しか飛べない鳥は、不幸だと思っていた。きっと、大空を飛びたいのに、飛べない鳥は不幸であるはずだ、と。
 アスランが、私を壁際に追い詰めて、顔の両脇に手をついた。それはまるで檻のようで。そこにずっと囚われていたいと思う私がいた。
 ――どうか、私の羽根を切って……。
 でも、アスランが羽根を切らないことを知っている。彼はいつでも私の飛翔を望んでいる。どんなに窮地に追い詰められても、最後まで私に期待してくれたのは、アスランだった。
 その優しさが私を苦しめる。行かなきゃいけない場所があるのに、ここはすごく居心地がいいから。
 私を追い詰めるくせに、肝心なところでその手を緩める目の前の男を、あらん限りの憎しみを込めて、睨め付けてやる。
 だが、その苛立ちが何に因るものであるかを悟った瞬間、私は愕然とした。
 ――アスランが無理矢理閉じ込めてくれれば、私はその責任を負わずに済むのに……。
 そんな願望の裏返しであることに気が付き、私は卑怯で甘ったれた自分を恥じた。いけない。こんなことを考えていては。私はそれを願ってはいけないのだ。

 しかし、それを綺麗に打ち消せるほど、私は無欲ではないようだった。その言葉は自分でも意図せぬままに零れ落ちた。
「私も、お前と同じ空が飛びたい」
 そう請うた瞬間に、眦から涙が押し出され、奇妙な開放感が胸に広がった。
 ――思う存分、飛びたい空を飛んで、少し疲れた時は、お前の肩で休んでもいいだろうか。私の飛びたい空は、お前の空とも繋がっているのだろうか。
 そう願う気持ちを、私はもう止めることができなかった。






『口説きバトン』目次










【あとがき】
もっとどんどこ根暗な話になるはずだったのですが、アスカガだから最後はポジティブになっちゃった(苦笑)
「本当に愛しているなら、繋ぎとめるのではなく解き放つ。そうすると最後は自分のところに戻ってくるから」という含蓄ある言葉を聞いて、連想した話です。
お互いを束縛しない(できない)からこそ、アスカガはアスカガだと思うのです。

ここまでノンストップできましたが、いい加減眠いので、寝ます。


 

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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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