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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
※この話だけ、カガリ視点です。
08.
――逢魔が時。
昼から夜へ。
今は、明るくもなく、暗くもない。
一日が終わろうとする、ぼんやりとした狭間の時間。
向こうからやってくる人影。
しかし、彼の人は一向にこちらへ姿を現さない。
誰そ彼は。
彼は誰そ。
尋ねてはいけない。
それは人ではないかもしれないから。
まだ闇が来る前。
魔に属する者たちが、存在を色濃くする前。
だからこそ、声を掛けてはいけない。
ぼんやりと佇んでいるだけの彼らに、姿を与えてしまうから。
大禍時――それは、此岸と彼岸を分かつ流れが、曖昧になる時間。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カガリは、ソファに臥せったまま、鳥が群れになって羽ばたく様子を見ていた。もうすぐ夜が来るから、彼らも寝床に帰るのかもしれない。
外はまだぼんやりと明るく、電気を消した暗い部屋に濃い影を作る。
不意に、その黒々とした影が伸びた。みるみる影は伸びて、やがて、人間のシルエットを作り出す。そうして、陰がゆっくりと起き上がると、触覚と羽の生えた少年になった。
「ねえ。何やってんの?」苛立たしげに少年が言った。
「……キラ……」
突如、少年が現れたことにも驚かず、カガリは弱弱しい声で彼に応えた。
誰かが二人を見ていたら、色違いの人形だと思ったかもしれない。それ程に、彼らの顔立ちは似通っていた。
「なんだよ。最初はいい感じだったじゃない? 無理矢理、青魚を食べさせたりとか。なのに、なんで助けちゃうのさ? それも、カガリの生命力を分け与えてまで……」
「だって……あいつ、私のせいで死んじゃうところだった」
「まあ、命を奪うのは確かにやりすぎだったかもしれないけど、なんであいつを幸せになんかしちゃうのさ? それは、カガリのやるべきことじゃないでしょ?」
少年の言うことに、カガリは首を傾げた。
「幸せになんてしてないよ……。だって、私、あいつにいっつも迷惑かけちゃうんだ……」
「でも、あいつ笑ってるじゃん」
「そう……。笑ってくれるから、せつない……」
少年は、呆れ果てたように、仰々しく溜息を吐いた。
「最初は、それも作戦のうちかと思って、様子を見ていたんだけどね……」
「……作戦?」
「分からないならいいよ」
少年は窓の外を見遣った。先ほどよりも暗闇が濃くなり、明かりを灯す家がぽつぽつと増えていく。人間達は、明かりを点けて、この世の闇を、自分たちの目に見えないところにまで追いやろうとしている。
だが、闇が消えることはない。
暗闇の中で明かりを点せば、影は一層濃い闇となる。悪魔たちは、この闇を辿ってどこまでも移動することができるのだ。
「もうすぐ聖誕祭が迫っている。君の身体がどういう状態かは分かるよね?」
「……うん」
「じゃあ、ちゃんとやるんだよ。その身体じゃ、魔界にも戻ることができない」
少年が念を押すと、カガリは、押し黙ってしまった。その様子を見て、少年はさらに苛立ち、声を張り上げた。
「カガリ! 分かってるの!? 本当に危険なんだよ!? カガリは、――――するだけでいいんだ! ――――したら、魔界に帰れる力も回復するから!」
「……いや。いやだ。したくない! 絶対しない!」
「カガリ!!」
少年が叫んだ時、鍵を開ける音がした。家主が帰って来たらしい。
少年は、小さく舌打ちをすると、「ちゃんとやるんだよ」と念を押し、現れた時と逆の手順で影と同化して消えた。
カガリは、アスランの足音を聞き、安堵した気持ちで堪えていた涙を零した。少年が消えた影を、じっと見つめながら――。
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