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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
04.
何週間たっても、カガリは出て行こうとしなかった。
アスランも、もう追い出そうとは思わなくなった。
何十回目かの夕食を共に食べていると、カガリがおもむろに切り出した。
「なあ、アスラン。お前は、今、幸せか?」
カガリは、アスランの作ったパスタを、見事な食べっぷりで平らげていく。悪魔のくせにフォークの使い方が上手く、存外、食べ方が綺麗だった。――尤も、アスランが知っている悪魔はカガリしかいないので、比較はできないのだが……。
「いきなり何だよ?」
「いいから、答えろよ」
「特別幸せともいえないし、特別不幸ともいえないな」
「客観的に見れば、お前の人生はかなり不幸な部類に入ると思うぞ。肉親もいないし、友達もいないし、彼女もいないし……」
また、なんだか失礼なことを言われたが、とりあえず無視することにした。
「そうか? 周りは恵まれてるって言うけどな。某有名私立で小中高と優秀な成績を修め、現在は某難関国立大学に主席合格。五体満足で、人より容姿に優れ、両親がきちんと保険金をかけてくれたおかげで、この年齢でかなりの資産家だ。大学の奴らは、将来の心配がなくていいと羨んでるぞ」
「お前って嫌味なヤツ」
「俺が言ったんじゃないさ」
事実、アスランは自分自身のことを幸福だとも、不幸だとも思っていなかった。毎日というのは、なんの変哲もない日々の積み重ねで出来ている。特別なことというのは、そうそう頻繁に起こるわけではない。例え起こったとしても、それも雑多な日常に埋もれていってしまう。両親が死んでも、その悲しみは薄れていくし、悪魔が現れた時も、それを日常として受け止めていくだけだ。――彼は、それなりにこの生活に満足していた。
「なあ、食後に甘いものを食べたいと思わないか?」
「思わないな」
「少しの贅沢が、人生を潤してくれると思わないのか?」
「そんなまともそうなことを言って、お前は、デザートが食べたいだけだろう?」
「えへっ♪」
「そんな生活余剰品はないぞ」
「果物とかもないのか?」
果物――。そういえば、近所の八百屋でほうれん草を買ったときに、おかみさんがおまけしてくれたものがあった。野菜室からその黄色い球体を取り出す。
「グレープフルーツならあるぞ」
半分に切って、スプーンで掬って食べられるようにしてやる。
部屋中に、爽やかな香りが広がり、カガリは嬉しそうに琥珀の瞳を細めた。
「うが~! 苦いっていうか、酸っぱい! 口の中がピリピリする!」
「砂糖をかければ、甘くなるぞ」
幼い頃、グレープフルーツの酸味が苦手だったアスランに、母が教えてくれた方法だ。本当はグラニュー糖をかけるのだが、そんな洒落たものはないので、上白糖をかけてやった。
砂糖をかけたグレープフルーツは、カガリを満足させたようだ。
「僅かな工夫で、幸せは生み出せるんだな。グレープフルーツに砂糖をかけるように」
「お手軽だな。お前の幸せは」
「お前も食べろよ」
「俺はいいよ。もう半分はラップをかけておくから、明日食べれば?」
「いいのか!? お前いいヤツだな♪」
カガリは満面の笑みで、グレープフルーツを口に運んでいる。
(こいつは、本当に簡単だな……)
幸せそうなカガリを見ていたら、思わず、アスランの口元も緩んでしまった。
しょうがないから、明日、スーパーに行ったら、グレープフルーツをまとめて買っておいてやろうと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アスラン。砂糖をかけてくれ」いつものようにカガリが言う。
「自分でかけろよ」
「お前がやった方が、綺麗なんだ」
「カガリが大雑把なんだよ」
確かに、均等に砂糖を振りかけるには少し根気がいる。先に振りかけたところの端に、重なるか重ならないかの具合で振りかけていくのだ。
少し面倒くさそうにしながらも、いつでもアスランはていねいに砂糖をかけてやった。
カガリは、甘みの増したグレープフルーツを、いたくお気に召し、夕食後のデザートには、必ずアスランが砂糖をかけたグレープフルーツを所望した。
彼女はふざけて、それを、『幸福の果実』と呼んだ。――それが、彼らの日常となった。
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