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■キーワード2 『月』
(空白の二年間)
side A
――彼女は地球のような人なのだ。
カガリと手を繋いで夜道を歩く。今夜は、とても月が明るくて、カガリの髪が淡い光を放っている。
「なあ、あれ満月かな?」
キレイだな。とカガリが無邪気にはしゃいだ。
カガリは子どものように、素直な心で何にでも感動する。飛行機雲や、雨の降った後の蜘蛛の巣。そういった日常のちょっとしたキレイなものを見つけるのが、カガリはとても上手い。――いや、少し違う。彼女は、見たものを素直に表現するのが上手いのだ。
「どうだろう? 少し欠けているような気がするけど」
月――十年以上も住んでいた所。
俺にとって月は、兄弟のように育ったキラとの思い出がたくさんある場所で、生まれ故郷であるプラントより、ずっと馴染みが深い場所だ。地球に下りてかなり経つのに、こんな風に月を見上げる自分に、いつまでたっても慣れない。
でも、手を繋いで同じ地面を歩いている人がいてくれることが、俺の意識を認識へと導いていた。
「カガリは、月を地球から見ると、ずっと同じ面しか見えないのを知っているか?」
「へえ。何でだ?」
「地球の潮汐力によって、月の自転周期が、公転周期と完全に同じになるんだ。だから、地球からは、月の裏側を永久に直接観察することができない」
「ふーん……」
カガリは、そう言って月を仰いだ。
今日は本当に月が明るい。こんな暗がりでも、カガリの睫毛の一本一本までが、はっきりと見える。金の睫毛が月の明かりで透き通って見えて、とても綺麗だと思った。
「俺は――、月みたいだな」
カガリは分かってくれるだろうか? いや、格好悪いから、知られない方が良いに決まっている。
地球から月が同じ面しか見えない本当の理由は――
月は、地球が好きでたまらないから、ずっと地球の方ばっかり見て、地球の周りをぐるぐる周ってばかりいるのだ。
脳裏に浮かぶのは、月にいた頃の記憶。今見ている月よりも、ずっと強い光を放っていた、青い地球の姿。
ずっと見ていたくて。ただ、見ていることしかできなくて。
まるで、今の俺のようだ。
**********
side C
夜道を二人で、手を繋いで歩いた。
私より一回り大きい手が、私の手を握りしめてきた時、本当はすごく恥ずかしかった。けれど、触れたところから伝わる熱がすごく優しくて、私はこのままずっと手を繋いでいたいと思った。
月がアスランの黒髪を透かして、ちょうど月の回りの空のような色になっている。
「カガリは、月を地球から見ると、ずっと同じ面しか見えないのを知っているか?」
「へえ。何でだ?」
本当は、月の自転と公転の同期によることは既に知っていた。でも、口数の少ないアスランが、せっかく自分から話しかけてくれたのだ。私は、アスランがその落ち着いた声で静かに語ってくれるのを、とても気に入っていたから、知らない振りをして先を促した。
「俺は――、月みたいだな」
アスランはそう言って、長い睫毛を伏せた。
どういう意味なのだろう?
いつもはもっと、筋道をつけて話すアスランが、不意にぽつりと漏らした言葉。アスランの意味するところが、私には分からなくて、少しもどかしい。
でも――
「そうだな」
アスランが月に似ているというのは、私にもうなずけるところだ。
「月って、すごく冴え冴えとしていて、綺麗だろ。そういうところがアスランに似ていると思う。それから、今日みたいに暖かくて柔らかい月もアスランに似ている」
アスランがきょとんとした目で私を見て、何だか決まりが悪そうに口元を手で覆った。
「全く、君には敵わないな……」
どういう意味だ? またしても良く分からない。
そこにあるはずなのにしかと捉えることができない、うっすらと赤黒い新月。頑なに冴え渡った白い三日月。心をじんわりと暖めてくれる黄色い満月。月は、どれが本当の姿か良く分からない。
けれど、変わらずそこにいて、地球の夜を静かに優しく照らしてくれる。
――彼は月に似ている。
『口説きバトン』目次
【あとがき】
アスランからの口説き台詞かと思いきや、カガリのクロスカウンターが炸裂!!
私の中で、アスカガ2年間は月と地球のイメージです。