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※アスカガ社会人パロ
『ご先祖様の言う通り』




1.  3(+1)=4?の同居生活 (4)


 ジーっという蝉の鳴き声のような音が、深夜のダイニングに鳴り響く。
「……誰だろう?」
 真夜中の訪問者に、キラが眉を顰めた。
「私、見てくる」
「いや、僕が行くよ。カガリはここにいて」
 うん、そうした方が良い。夜中に来る客なんて、絶対碌な者ではないはずだ。酔っ払って部屋を間違えたか、あるいは善からぬことを企む輩か。いずれにせよ、若い女が出るのは危険だ。
 部屋に残されたカガリと目が合うと、彼女はさっと鉄アレイを構えた。……止めて。
 仕方がないので、フローリングの木目を凝視することにする。
 ステンレスの分厚いドアが、耳に障る音を立てて開き、キラが「どちら様ですか?」と硬い声で訊ねる。
「すみません。こちらに、アスラン・ザラさんという方が住んでいると思うのですが……」
 若い男の声だった。
 この声は……、
「……ダコスタさん?」
 ということは、本当に碌でもない奴が来たのだろう。
「アスラン、知り合い?」
 キラが、俺に訊ねる。俺のいる位置からは、キラの様子が分からないが、声の調子からすると、どうやらダコスタへの警戒を、さらに強めたらしい。
「すみませんけど、もう夜も遅いので、今度にしていただけませんか?」
 いいぞ、キラ! そのまま追い返せ!
 そんな緊迫感を霧散させたのは、まるで鈴を転がしたかのような、涼やかな若い女の声だった。
「夜分遅くに、申し訳ありません。わたくし、ラクス・クラインと申します。幼馴染のアスラン・ザラが引っ越したと聞いて、引越し祝いを持って参りましたの」
「ラクス・クライン? え? あのラクス・クライン?」
 カガリは驚いた声を上げて、玄関まで走って行った。
「カガリ! 出てきちゃ駄目だ!」
「駄目ですよ、ラクスさん! 僕がいいって言うまで、出てこないで下さいって言ったでしょうが!?」
 キラとダコスタが同時に怒鳴る。
「ごめんなさい。夜も遅いので、同居人さんも警戒していらっしゃるようですから、わたくしが出てきた方が、話が早いと思いましたの」
 ラクスが、相手の都合とか立場とか、そういった諸々を全く考慮していない暢気な声で言った。昔からラクスはこういう奴だった。なのに、言っていることだけは、他人の痛いところを突くので、微妙なイラつきに苛まれながらも、その言い分を受け入れざるを得ないのだ。
 俺は、今頃頭を抱えているだろうダコスタに、深く同情した。
 マーチン・ダコスタは、レコーディング会社がラクスに付けたマネージャーだ。オーブでレコーディングをしている時は、大事な商品であるラクスの管理を任されている。夜中に、ここへ来ることも、正直承服しがたいに違いない。
「あ、あの……ラクスさんって、声楽家のラクス・クラインさんですよね?」
「カガリ、知ってるの?」
「ほら、あの空気清浄機のコマーシャルにも出てる子だよ!」
「ああ~! “出力が強いだけでも、音が静かなだけでも、駄目なのです。省エネでないと!”ってやつ!?」
「……お恥ずかしいですわ」
「え~! すごい、すごい! 僕、テレビに出てる人に初めて会った! どうぞ、上がって行ってください!」
 おい! キラ! 通すのか! なんだその愛想の良い声は! 先程までと全然違うじゃないか!
 ああ、ラクスがこっちに来る……!
 なんとかガムテープを解こうと、腕と脚を動かしてみたが、焦った勢いで、身体を仰向けに反転させてしまった。手の骨が、自分の身体の重みで、ごりっと床に擦れた。
 いってえ!!
「あらあらあら~。アスラン、何だか楽しそうなことをされていますわね?」
「……何しに来た」
 慌てて半身を起こし、睨み付けてやったが、あまりの痛みに、目尻に涙が浮かんでいたので、大した効果はなかったかもしれない。
「随分なおっしゃりようですわね。助けに来て差し上げたのに……。お困りなのではなくて?」
「君が来たところで、事態が好転するとは思えないが……」
 むしろ悪化するのではないだろうか? アレックスといい、ラクスといい、もう余計なことはしないで欲しいと腹を立てていると、双子が言った。
「アスラン! ラクスさんに何てことを言うの!?」
「そうだぞ、アスラン!」
 何なんだ、お前らは? 何故、会ったばかりの人間に肩入れする?
「ラクスさん」
 ダコスタがラクスに紙袋を渡す。
「まあ、忘れるところでしたわ。引越しのお祝いです。皆さんで、どうぞお召し上がり下さい。日本産の蕎麦粉を百パーセント使用したお蕎麦ですの」
「わ~! ありがとうごさいます! そういえば、引越し蕎麦食べなかったねえ。明日の夕食にしようよ、カガリ!」
「うん! 私、十割蕎麦って初めてだ!」
 双子は、もうラクスに手懐けられている。餌付けか?
「ところで、アスランは、何かしでかしたんでしょうか?」
 “しでかした”とは何だ、“しでかした”とは! 大体、しでかしたのは、俺ではなくて、アレックスである。
「そうそう、聞いてよ、ラクスさん。アスランったら、夜中にカガリの部屋に忍び込んで、酷いことしようとしたんだよ。許せないよね!」
「まあ! 本当ですの?」
 俺は、しぶしぶ認めて頷いた。
「だが、俺の意思ではないぞ」
「また、そんなことを言ってる……。カガリには恋人がいるんだから、他を当たってよね」
 キラが呆れたように溜息を吐いた。
「実は、アスランが言っていることは本当なのです。アスランには、アレックスという霊が取り憑いておりまして、アスランが子どもを儲けるまでは、成仏しないと言い張っているのです」
 ラクス……君は、馬鹿じゃないのか? そんなことを正直に言って、信じてもらえるものか。現に俺も信じてもらえなかった。
「アスランは、一人で漫才をされているような感じではありませんでしたか? あれは、自分の内にいる霊と対話していたのです」
「確かに、一人でボケとツッコミやってたけど……。本当かなあ……?」
 キラが、眉間に皺を寄せて言った。
 ほら見ろ、やっぱり信じてもらえないじゃないか。そんなことを言えば、ラクスと俺が妙な法螺話のために、口裏を合わせていると思われるだけじゃないか。
 しかし、ラクスは真正面から真実を口にすることを止めなかった。
「本当ですわ。わたくしには、分かりますの」
 あ、とカガリが声を上げる。
「そういえば、ラクスさんって、霊感があるんだとか……」
「ええ」
 ラクスは、細い眉を震わせて、つらそうな顔をした。
 双子が、ダコスタの方を見ると、彼も頷いた。
「本当です。ラクスさんの霊感は、並の霊能力者より強いんです。この業界では有名な話ですよ」
 ダコスタは、自分も怖い目に遭ったと、震えが止まらない身体を抱きしめるようにして擦った。
 おいおい……。自分が見えるからと言って、目に見えないものの存在を、信じ込ませることができるとでも思っているのだろうか。実際に、取り憑かれでもすれば、また話は別だろうが。
 もういいから、帰ってくれとラクスに言おうとした時だった。
「……そっか。ラクスさんが言うなら、そうなのかもね」
「うん」
 あ、あれ……? キラ? カガリ?
「僕、ラクスさんを信じるよ!」
「私もだ!」
「お二人とも……、ありがとうございます。アスランは、何かと気の利かない方ですが、これからもよろしくお願いいたしますわね」
 深々と頭を下げるラクスに、双子は恐縮している。
 な、なに~~~!! おい! どうして、ラクスは信じて、俺は信じてもらえないんだ!? おかしいだろうが!?
 会ったばかりのカガリは、まだ分かる。
 だが、キラ。確かに最近は連絡を取っていなかったが、お前とは、七年間も一緒にいたはずだ! 俺より、さっき会ったばかりのラクスの方を選ぶのか!?
 あんなに一緒だったのに……。正直、すごく落ち込んでいる。
 あれ? ……おかしいな? ショックを受けたことを認めたら、なんだか目から汗が出てきた……。
「あれ? 何泣いてんの、アスラン?」
 キラが、能天気な声で言った。
「これから、よろしくな! アスラン! アレックス!」
 カガリが、朗らかに言った。
 俺は、顔で泣きながら、口では明るく言った。いや、アレックスが、俺の口を借りて言った。
『ああ! 二人とも、よろしく頼む!』
 俺一人を除いて、“ああ、みんなが仲良くできそうで良かった”という顔をしている。深夜のダイニングキッチンに、和やかな空気が流れた。

 誤解が解け、俺への拘束も解いてもらった後、ラクスとダコスタは、明日もレコーディングがあると言って帰って行った。
 俺達三人も、明日の生活のために、各々の部屋へと戻って、身体を休めることにした。
 部屋に入ると、アレックスが得意そうに言った。
『私が言っていた通りだな。やはり先に私を紹介しておいた方が、話が早かったじゃないか? 同居人にも、ずっと黙っているなんて、土台無理な話なんだ』
 それは、結果論に過ぎない。
「大体、お前が暴走するから、いらない迷惑を被ったんだ。約束通り、大人しくしてくれていれば、お前のことを話す必要もなかったし、こんな目にも遭わなくて済んだのに……。もう、こんなことするなよ!」
 俺は、まだ違和感の残る顎を撫で擦った。
 その後も、アレックスは何か言いたそうだったが、俺の睡魔には勝てなかった。いや、もしかすると、寝言となって、アレックス一人で喋っていたのかもしれない。……嫌だな、それ。


 この日から、この築三十年の公共住宅の一室で、俺たち三人――ではなく、四人の生活が始まることになった。
 ただし、死んだ人間を数える時も、生きている人間と同じ単位で良いのかどうかは、未だ定かではない。家賃は発生しないしな。






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いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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