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※※本編をご覧になってから、こちらをご覧下さい※※

※中編『グレープフルーツ』の番外編・キラ視点
『パッションフルーツ』





 キラには、この少年が、ショコラ味のドーナツが好きで、後から食べることは分かっていた。だから、皿に手を伸ばし、ドーナツを頬張ることにする。
「あー!」
 彼は、恨めしそうにキラを睨んだ。綺麗な緑の瞳には、涙が滲んでいた。
 キラは、綺麗なものが歪む瞬間が好きだ。それは、キラをわくわくさせてくれる。
「なんだ。アスランってば、ずっと残しているから、いらないのかと思った」
「……後から食べようと思ってたのに」
 それが甘いと思った。取っておいても、誰かに横取りされては意味がないではないか。常に、その瞬間の欲望に忠実に生きないと、果たせぬまま潰えてしまう。
 それに、我慢は欲求を鈍らせる。本当にそれが欲しいものであったのか、分からなくなることもあるだろう。
 自分に素直に生きれば、そんな心配はいらない。欲望というのは、果たせば果たすほど、あぶくのように次から次へと現れて、全く退屈しない。
 

 実は、キラは、今から凡そ千年ほど前に魔界で生まれた、悪魔と呼ばれる存在である。悪魔は、堕落と快楽を追求することを至上とする生き物だ。
 本来なら、人間でいうところの二十歳前後の姿をしていのだが、あまりに傍若無人な振る舞いが、魔界の主である魔王の逆鱗に触れ、この小さな姿にされてしまった。「この糞生意気な糞餓鬼が! 娑婆で、痛い目に遭うが良い! それまで魔界からは追放する!」という魔王の仕置きにより、ろくに術も使えぬこの姿で、人間界に置き去りにされてしまったのだった。
 悪魔は人間を不幸にするのが仕事であったが、キラは、正に『悪魔の中の悪魔』といえる能力を持っていた。なにしろ、他の悪魔たちが「あいつは悪魔のような奴だ」と評するのだから、桁違いの才能なのである。
 その桁違いの能力は、魔王にも行使され、今に至る。
 キラは、悪魔と呼ばれることが嬉しくて仕方がない。そう呼ばれることが、生きがいと言ってもよい。
 太陽が眩しいからという理由で殺人を犯せば、『異邦人』と呼ばれ、負の感情を煽ることで生きがいを得ていれば、『悪魔』と呼ばれる。常識という建前を守るためには、自分の感情の赴くままに行動する者たちを、異邦人や悪魔と識別するしかないのだろう。
 悪魔のキラは、本能のままに生き、己の欲望を満たすことだけを考えていた。
 そんな性質であったから、罰として、子供の姿に変えられ、人間界に置き去りにされたとしても、彼はへこたれたりなどしなかった。おおいに、人間界での生活を満喫していた。
 お誂え向きに、人間界では聖誕祭が迫っていた。しかも、キラがいるこの国では、特定の宗教を敬虔に信仰している者は少なく、聖誕祭は仲間内で騒ぐための口実になっているらしい。
 商店街には『Marry Christmas!』と書かれた横断幕が張られ、街路樹には色とりどりの電飾が輝いている。そして、至る所で、愛する人にプレゼントを渡し、仲間とご馳走を食べることを推奨している。心の内に孤独を抱えている者にとっては、残酷すぎる仕打ちだ。
 明るく浮わついた街には、よく見ると、沈んだ表情の人がいて、暗い陰りを漂わせている。
 人の不幸は、悪魔にとっては御馳走でもある。美味なる陰の気を味わうためにも、もう少し人間界にいても良いと、キラは楽観的に考えていた。


「ひどいよ、キラ……」
 少年は、未だ、未練がましく空になった皿を見つめている。
 彼の名前は、アスラン・ザラというらしい。偶然、彼が公園で遊んでいるところを知り合ったのだが、キラを家に呼びたがっているようなので、時々付き合ってやっている。アスランの家は、父親も母親も仕事をしていて、日中は幼い彼一人だけであったから、キラにとっても都合が良かった。
「アスランがぐずぐずしているから、駄目なんだよ」
 この遣り取りも、一度や二度のことではない。対策を練らないアスランの、要領が悪いのである。
 ぐずぐずと鼻を啜り出した彼から、陰の気が漂い始めた。ほんの間食程度に過ぎぬものではあったが、キラは何食わぬ顔でそれを味わった。
 そうして、暫くべそをかいていたアスランだったが、時計を見ると、脚の長い椅子から飛び降り、脇目もふらずにリビングへと向かった。
「ガンダム始まる!」
 テレビの電源を入れると、お行儀よくソファに座り、アニメ『機動戦士ガンダムSEED DANGEROUS』の始まりを待った。
「キラは見ないの?」
 その緑の瞳が、一緒に見ようと言っているので、仕方なく隣に座る。
 アスランは、アニメが始まると、前のめりになって画面に見入っていた。キラも、先週視聴した回が良い所で終わったせいか、知らず展開を追ってしまう。
 先週、ガンダムが破壊され、主役と準主役は、戦う手段を奪われてしまったのだ。失意の中、それでも戦ってでも守りたいもののために、焦りを隠せない少年パイロット達。
 そして、ついに、ガンダムの後継機が登場した。音楽の高まりも勇ましく、デザインの粋を凝らしたガンダムが、日の光に輝いている。
「うわ~、カッコいい」
「うん……」
 隣から漏れた声に、キラも思わず頷く。
「ナイトジャスティス、ほんとカッコいいな~」
「はあ!?」
 その素っ頓狂な声に、アスランが不思議そうに、キラの顔を見つめた。
「どう考えても、スーパーフリーダムの方がカッコいいでしょ!」
「ナイトジャスティスだよ!」
「ナイトジャスティスなんて変だよ! なんか、気の抜けた小豆みたいな色してるし! スーパーフリーダムの方がカッコいじゃん! だって、羽根生えてんだよ!?」
「ナイトジャスティスだって、ファトゥムが付いてるじゃないか!?」
「ふん! でも、絶対強いのはスーパーフリーダムの方だから!」
 確かに、パイロットが準主役のせいか、ナイトジャスティスの方が、活躍度が低い。残念だが、所詮、準主役は『準』主役。本当の主役には勝てないのである。
 アスランは、忽ち、泣き出しそうな顔になった。
「……いいもん。お父さんに、プラモデル買ってもらうから。クリスマスには、好きなもの買ってくれるって言ってた」
 彼は、次回予告が終わったテレビ画面を見つめながら、そう言った。画面には、クリスマス商戦向けに、新しいガンプラのコマーシャルが流れている。
「キラも買ってもらうでしょ? 買ってもらったら、一緒にSEEDごっこしようね」
「アスランのお父さん、タンシンフニンじゃなかったの?」
「今度の土曜日、帰ってくるんだ。でも、お休みが終わったら、すぐ向こうに行くって……」
「……ふーん」
 それは良いことを聞いたと、キラは思った。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 休みが明けた月曜日の朝。キラは、アスランの住んでいるマンションの入り口で、待ち伏せを仕掛けていた。彼が待っていたのは、日曜日にアスランと連れ立って歩いていた壮年の男だった。
「おじさん。アスランのお父さん」
「……ん? ああ、もしかして、アスランの友達かい?」彼は、キラの触覚や羽根を見て、一瞬だけ怪訝な顔をしたが、子供に奇抜な服を着せたがる迷惑な親もいるものだと思い、特に何も言わなかった。
「うん」
「そうか。いつも、アスランと遊んでくれてありがとうね」
 男は腰を曲げてキラと目線を合わせると、彼の頭を分厚い手で撫でた。
「ねえ、おじさん。これ見て」
 キラはこの日のために、他の子共から分捕ってきたものを見せた。
「ああ、ガンダムだね。格好良いなあ。これは、なんていうガンダムなの?」
「スーパーフリーダムだよ」
「へえ……。アスランは、赤いのが良いって言ってたなあ。なんだったかな……? ジャスト・ノーティス?」
 都合の良いことに、男はガンダムに詳しくないらしい。
(おっさん。お前がきちんと気が付け)と思いながら、説明してやる。
「違うよ。アスランが欲しがってたのも、スーパーフリーダムだよ」
「あれ? おじさん、間違えちゃったかな?」
 この男は、とにかく、色々と間違えている。
「うん。ナイトジャスティスなんて、みんなダッサイって言ってるよ。スーパーフリーダムが、一番人気があるんだよ」
「そうだったのか……。 教えてくれて、ありがとう」
 男は、スーツの胸ポケットから黒い手帳を取り出し、何やらメモをした。それから、ちらりと腕の時計を見ると、キラに別れを述べて、駅へと向かって歩いて行った。


 そして、十二月二十五日――聖誕祭。
 キラは、アスランの家を訪れた。勿論、悪巧みの成功を、この目で確かめるためである。
 チャイムを鳴らすと、アスランがインターホンで誰何する。名を告げると、鍵が開けられる。
「やあ。クリスマスプレゼント貰った?」
「……うん。昨日、届いた」
 アスランは、複雑そうな顔をしながら、キラを招き入れる。
 リビングのテーブルには、父親から買って貰ったのだろう、白と青のガンダムが置かれていた。
(あれ? 大きい?)
 それは、キラが持っているものよりも、二倍程大きかった。
(ああ、そうか。スケールが違うんだ)
 キラが持っているのは、1/100スケール。これは、1/60スケールなのだろう。
 それにしても、アスランのものの方が、造形が細かくて美しい。これは、良いものだ。
 少しうらやましくなったキラだったが、本日の目的を遂行すべく口を開いた。
「な~んだ。結局、アスランもスーパーフリーダムにしたんだ」
「ちがう。お父さんが間違えたんだ」
「え~、何それ。僕のお父さんは、間違えなかったよ。アスランのお父さんって、アスランが欲しいものも分からないの?」
「うん。……でも、お父さんこれを買うために、おもちゃ屋さんに電話しまくったんだって。限定品だから、なかなか手に入らなくて大変だったみたい」
「限定品……」
(こ、これは、もしかして――PG・1/60・ストライクフリーダムガンダム・ライトニングエディション!)
 PG・1/60・ストライクフリーダムガンダム・ライトニングエディションは、今年のクリスマス商戦の目玉であった。何しろ、アニメ内の追加設定に合わせて、可動部が光るというのだから、まさしく、クリスマスに打って付けの商品なのだ。
 アスランには、まだ組み立てるのは難しいだろうということで、今回は、職場でプラモデルを趣味としている部下に頼んで作ってもらったらしい。その部下の男も、この限定品は手に入らなかったらしく、喜んで組み立ててくれたそうだ。
「キラもスーパーフリーダムのプラモデル買ってもらったって言ってたから、足の裏に名前書いたんだけど、大きさが違うから間違えないね」
(バカ! 名前なんか書くんじゃない!)
 限定品の価値も知らず、歪な字で名前を書いた少年に、くらくらと眩暈がしそうだった。
 アスランは、カーテンを引くと、部屋の電気を消し、スタンド部にある小さなつまみを動かして電源を入れた。ぼうっと、薄暗い闇に、スタイリッシュな白と青の機体が浮かび上がる。
「きれいだね。ツリーみたい」
 キラの期待とは異なり、アスランの表情は穏やかだった。本当はナイトジャスティスが欲しかったはずなのに、このプラモデルでも満足しているようだった。
 自分の欲しかったものの代替品を手に入れて喜ぶなど、そんなのは誤魔化しである。本当に欲しいものを得られない悔しさや悲しみを、そんな建前で着飾って、本当に幸福になれるわけがない。
 だが、アスランからは、全くと言って良いほど、陰の気を感じない。
 キラは、腹の中をぐるぐるとかき混ぜられたような不快感を覚えた。
「……気分が悪い。帰る」
「え? 大丈夫? 風邪かなあ?」
 素直に、アスランが、心配してくれる。
 キラは、「気をつけてね」という言葉もおざなりに聞いて、アスランの家を出た。


 外は、先程まで暗い部屋にいたせいか、眩しくて仕方がなかった。
 手にしているガンダムを、マンションの植木に突っ込むと、商店街へと向かう。
 いつもは、陰の気を味わうために闊歩していた商店街だったが、何故だかやたらと人々の笑顔が目に付く。
 堪らず、「僕は、悪魔なんだあっ!!」と叫び出した。
 周囲を歩いていた人が、ぎょっとキラの方を見たが、子供のすることだと、すぐにそれぞれの目的の沿って通り過ぎて行った。
 悪魔は、人間を不幸にすることが仕事なのだ。中でも、自分はその才能に長けていたはずだ。
 しかし、キラが想像したアスランの不幸を、当のアスラン自身が、不幸だと捕らえていなかった。
 悲しみの中にも喜びを見出す人間の逞しさに、悪魔のキラは、初めて、敗北感というものを味わったのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 日が沈み、黄昏時がやってくる。
 キラが、公園のブランコに座って項垂れていると、突然、影がのびて人の形に変形し、金色の髪をした少女が出てきた。その頭には、キラのものと同じく、黒い触角が付いている。
「キ~ラ♪ 魔王様が、戻って良いって仰ったから、迎えに来てやったぞ」
「……カガリ」
「お前、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
 大丈夫、と首を縦に振ったが、キラの顔は未だ悄然としている。
「何があったのか、よく分かんないけど……帰ろう、キラ」
 言っても動かぬようなので、カガリはキラを抱き上げた。いつもと違って小さいから、簡単に抱き上げることができる。
「うーん。お前、小さくなった時の方がカワイイぞ。ずっと、そのままでいろよ」
「……僕がこうなったのは、カガリのせいでしょ」
 キラは、舌先三寸で、魔王の詰問を逃れようとしたのだが、キラが魔王に消滅させられそうになっていると誤解したカガリが、「ごめんなさい! キラに悪気はなかったんです! 許してあげて!」と、割り込んできたのだ。キラにとっては有り難迷惑である。それが、図らずも罪を認めた形になり、魔王に「阿呆! 悪気のない悪魔がいてたまるか!」と、額に青筋を立てて怒鳴られたのだった。
「う~~。悪かったってば。でも、元はと言えば、キラが悪いことしたから駄目なんだぞ」
「僕は、悪魔なんだ。悪魔が、悪いことしなくてどうすんのさ」
「あーいえば、こーいうなあ。お前、弟のくせに生意気だぞ」
「僕がお兄ちゃんだよ。カガリってば、全然悪魔らしくないんだから。知ってる? みんな、僕たちのことを、足して二で割ったらちょうど良くなるって、言ってるよ」
「あーもう、うるさい! その姿じゃ、術も使えないくせに!」
 カガリは、キラを抱えて影の中に立つと、出てきた時とは逆の手順で影の中へと消えた。


 ――これから、十三年後。
 キラは、アスランにリベンジを果たすことができるのだが、それはまた、別の話。






 【目次】 










【あとがき】
アスラン、ほんと友達いない(苦笑)
とりあえず、メリー・クリスマス☆ アスカガとアスカガさんの幸せをお祈りして。

(110721改稿)



 

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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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