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文字数が6000字強もあるので、全然小さくない小ネタ。
アスカガと見せかけて、オリキャラの一人称。
『Can You Keep The Secret ?』
私は、とある高級ホテルのダイニングバーでアルバイトをしています。
大学が夏季休暇に入ったため、暇を潰してお金を作るべく、臨時アルバイトに応募したのです。高額の時給が主な志望動機でしたが、将来ホテルに就職したいとかなんとか適当な理由を述べたところ、無事雇っていただくことができました。
最初は失敗の連続で、やめたいな~、なんて思っていましたが、仕事を覚えれば達成感も増え、仕事が面白くなりました。
しかし、どんなやりがいのある仕事にでも、些細な不満はあるというもの。本当に些細なことですが、地味にストレスを感じているのでした。
そんなある日、マネージャーから通達がありました。
今度の水曜は、特別なお客様がいらっしゃるので、各自その心積もりをしておくように、と。
特別なお客様をお迎えすることは、当店では、さほど珍しいことではありません。
当店が入っているのは、オーブでは三本指に入る高級ホテルで、国内国外を問わず、エグゼクティブなお客様が利用されています。その流れで、当店もご利用してくださる方が多いのです。
と、知ったような口をきいておりますが、私は未だ特別なお客様をお見かけしたことがありません。先輩たちから噂を聞いて、いつか私も見てみたい、と羨ましく思っていたのでした。
*****
そして、週末の忙しさを切り抜けて、水曜日がやってきました。
「誰が来るんだろう……」
先週からそのことで頭がいっぱいで、つい独り言を言ってしまったのですが、奴は耳ざとく聞いていたようです。
「詮索はいけないな、エイミー。守秘義務があるんだから」
少し長めの前髪で瞳の様子は伺えませんが、左にきゅっと寄せた口元で、奴が笑っているのが分かりました。……キモっ!
「分かってるわよ!」
私は、奴の視線から逃れるように、開店前の清掃に励むことにしました。
彼の名は、タドコロ。私と同じ年齢のアルバイトですが、彼の方が長く働いているので先輩です。何故か私に付き纏ってくるキモイOTAKUです。
そう。彼こそが、この職場での些細な不満なのです。
先日も、彼は私の故障した音楽プレーヤーを、頼んでもいないのに勝手に弄り、修理したのです。
これに対して、職場の先輩は、「タドコロはエイミーに気があるのよ」などと、私の癇に障ることを言いました。私は、「止めて下さい。嫌ですよ。嫌ったら、イヤ!!」と全否定をしましたが、先輩には「そんなに嫌がることないじゃない。顔が綺麗で、頭も良いから、けっこう有望株だと思うけど……」と言われてしまいました。
確かにタドコロは整った顔立ちをしていましたし、頭も良く、私も仕事で助けてもらうことがありました。しかも彼は、OTAKUゆえに機械に強く、将来モルゲンレーテに就職したいと考えているようなのです。この国で、首長家以外の人間が一角の人物になるというのは、国営のモルゲンレーテに就職するか、防衛大を出て軍人になることを指していますので、タドコロはエリート予備軍ということになります。
しかし、それは彼がコーディネーターだからです。
誤解のないようあらかじめ言っておきますが、私はブルーコスモスではありませんし、コーディネーターに差別や偏見の感情は持っていません。コーディネーターの友人も、何人かいます。
ですが、タドコロの場合、私の気を引くために、コーディネーターであるという能力を私にアピールしていているようでした。単なるOTAKUのくせに、本当にキモイ奴です。「壊れたって言うやつ、直しておいてあげたから」なんて、頼んでもいないくせに、恩着せがましく言うのです。機械に強いからって、何だって言うのよ!
無駄に男前。それが、ケン・タドコロという人間なのです。
そうして、いつものように、地味にストレスを溜めながら給仕に勤しんでいると、俄かに店員たちがざわめきました。――そうです。特別なお客様がいらっしゃったのです。
「あ、ら~。今日のお客様は、本当にBIPだわ~」と、先輩が言いました。
私は、好奇心の塊になって、従業員室から店の入り口を覗き見ました。マネージャーが洗練された様子で、入り口から最も近く、尚且つ最も人目につかないお席へと、お客様を案内します。
お客様は二人いました。一人は、見事な金髪をした女性。そしてその少し後ろを、黒髪の男性が歩いています。お二人は、すらりとした体躯を、フォーマルな黒で装っていました。
――カガリ・ユラ・アスハ!
私は、心の中で叫びました。
特別なお客様とは、我が国の頂点に立つお方、オーブ連合首長国の代表首長閣下だったのです。
基本的に、首長家、中でもアスハ家は国民に人気がありますので、アスハ家の当主でもあるカガリ様は、並みのアイドル以上の人気がありました。
「てか、隣にいる男の人、誰? すっごい美形なんですけど」
「だから、詮索はいけないって……」
後ろからタドコロの声がしました。……また、盗み聞きかよ。
「そんなこと言ってさ。アンタも気になんないの? カガリ様と言えば、前の戦争で婚約者のユウナ・ロマ様を亡くされたばかりでしょ?」
「だから、今はまだ、公にできないってことなんだろ?」
私は、タドコロの発言に、僅かな違和感を嗅ぎ取りました。
「もしかして? アンタ、あの男の人が誰だか知ってるんじゃないの?」
イチかバチかの賭けではありました。公にできないとは、ユウナ・ロマ・セイラン様の喪に服していらっしゃる手前、世間体を気にしてのことなのか、あるいは……。
「さあね」
ぐわ~~! こいつは、本当に上から目線でむかつく奴です。
「何よ。知ってるんだったら、教えなさいよ」
実は、以前、カガリ様には、ユウナ様以外に想う方がいるとのゴシップが出たことがあったのです。その噂を打ち消すように、ユウナ様との結婚式が執り行われました。
しかし、その後、事態は二転三転とひっくり返り、カガリ様はテロリストによってさらわれるわ、ロゴスと手を結び、オーブに戦火を呼び込んだセイラン派は、不慮の事故で死亡するわ、プラントと戦争になるわで、結局、有耶無耶になってしまったのでした。
新聞もテレビも、私の知りたいことは教えてくれませんでした。
私は、尚も惚けようとするタドコロに、ぐいぐいと詰め寄ってやりました。
「エイミー。顔が近いよ……」そう言って、彼は真っ赤になりなりました。
それを見て取って、私はさらに顔を近づけてやりました。
「分かった! 言う! 言うよ!」
やけっぱちになったタドコロは、終に観念したようです。それから彼は、声を低めて私に言いました。
「誰にも言うなよ。エイミーにだけ言うんだからな……」
そのキモイ台詞に身震いがしましたが、私は先が聞きたかったので、うんうんと頷いておくことにしました。
タドコロが言うには、男の人の名前は、アスラン・ザラ。カガリ様と同じ歳で、オーブ軍の将校をされているとのことでした。
「ん? ザラ? ザラって……」
「そう。あのパトリック・ザラの息子さ」
う、ええええ~~~~!!?
「な、なんで!?」
「さあ? 第一次宇宙大戦の時には、もう知り合っていたらしいから、それから親交があったんじゃないか?」
一度目の宇宙戦争の時。カガリ様は、オーブが地球軍の手に落ちた後、僅かな同士を引きつれ、あのヤキンドゥーエで戦いました。その時、地球軍やザフト軍からも加わる者がいたのだとか。おそらく、あのコーディネーターの青年もその一員だったのでしょう。
ん? ということは、やっぱりユウナ様との関係は表面的なもので、本当は、以前からあの青年と愛し合っていたということでしょうか? パトリック・ザラは未だに戦犯として扱われていますし、当時のオーブは世界安全保障条約に調印していました。当然、パトリック・ザラの息子と、アスハ家の娘との関係は、歓迎されるべきものではなかったはずです。
本当だとすれば、なんというロマンス!!
私は、この世紀のロマンスの目撃者となったのかもしれない、と一人興奮していました。
それにしても、どうしてタドコロは、あの時少し見ただけで、彼がアスラン・ザラだと分かったのでしょうか。不思議でしたが、タドコロは、機械OTAKUであると共に、ミリタリーOTAKUでもあったので、その時はさほど気にはなりませんでした。
*****
しかし、この事実を知った私は、ひどい苦しみを抱えてしまうことになりました。
言いたいのです。カガリ様が、オーブ軍の将校、それもパトリック・ザラの息子と恋人であるという秘密を言ってしまいたいのです。
今までにも、誰かの秘密を分かち合ったことはあります。ですがそれは、ごく親しい者同士のことで、今回のように、ふと知ってしまった有名人のゴシップとは訳が違います。
――言いたい!
――私は、こんなスゴイ秘密を、知っているんだよ! と言ってしまいたい!!
ただひたすらに、その欲求に支配されておりました。
しかし、私には従業員として、お客様のことを外部に漏らさないという守秘義務があります。
理髪師が「王様の耳はロバの耳!」と叫んだ穴が、今の私には必要でした。
十分後、私は匿名掲示板を覗いていました。
まず、カガリ様に関するスレッドを覗いてみました。
入ってすぐに、私は後悔しました。カガリ様のアンチとマンセーが泥沼化していて、モヤモヤしてしまうだけだったのです。
そうこうして色々なスレッドを見ていくと、「見かけた有名人を報告するスレ」というのがありました。ああ、これならと思い、書き込むことにしました。
ホテルのレストランで働いてるんだけど、今日、カガリ・ユラ・アスハが来た。
しかも男と一緒!なんてゆーか、停まりっぽかったwww(爆)
私は知らなかったんだけど、男はオーブ軍のアスラン・ザラだってさー
ここまで書いて、私は投稿ボタンを押すのをためらいました。この文章では、誰が書き込んだのか、限定されてしまいます。「働いている」という箇所を取り除いても、他の客席からは見えないテーブル席に案内したわけですから、二人が来店したのを知っているのは、従業員だけです。
スレッドの親記事を見ると、場所・日時・人物は、ぼかしても良いとあります。
そこで、私は何回か書き直した末に、投稿しました。
女性政治家Cが、オーブ軍の将校と、高級ホテルのダイニングバーで食事してた。
なんとも無難な文章になってしまいましたが、一時間近く文章を練り続け、もうこれでいいか、という気分でした。
幸い、同じ時間帯にこのスレを覗いている人が何人かいたらしく、私の投稿したネタに食いついてくれる人がいました。
182 :名無しは見た!: *****/**/**(木) 01:02:04
女性政治家Cが、オーブ軍の将校と、
高級ホテルのダイニングバーで食事してた。
183 :名無しは見た!: *****/**/**(木) 01:06:35
〉〉182
え?Cってカガリさま?
え?え?うえ~~?
ガ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ン
184 :名無しは見た!: *****/**/**(木) 01:08:23
〉〉183
落ち着けwww
「政治家C」なら、首長じゃなくて、議員という可能性もあるぞ。
185 :名無しは見た!: *****/**/**(木) 01:14:09
〉〉182
高級ホテルのダイニングバーって、オノゴロホテルが有名だけど、
違うかな?
私は、これで満足することにしました。これ以上は危険です。
穴に向かって理髪師が叫んだ言葉は、やがて「王様の耳はロバの耳!」と叫ぶ葦を生やしたのですから――
*****
その後、私は愚かにも、自分のしでかしたことを忘れていました。いつものように、暇を潰して金を作る毎日に勤しんでいた時のことでした。
黒いスーツ姿の男たちが、開店前の店に押しかけてきました。
「申し訳ございません。お客様。ただ今準備中でございます」マネージャーが慇懃に、けれど有無を言わせぬ様子で応対しました。
「オーブ軍情報部の者です」先頭に立つ男が身分証を翳しました。
さっと、店の者達の顔色が変りました。
――どうして、軍の人間がここに?
皆が抱いた疑問と不安が、私の頭にも過ぎりました。そして、自分の書き込みに思い至ったのです。
警察はIPから個人情報を割り出すことが出来ると聞いたことがあります。警察にできて、軍の情報部にできないということはないでしょう。
私は、戦闘の混乱の最中、アスハ派がオーブ軍を使って、セイラン派を謀殺したという噂を思い出しました。あの噂は本当だったのかもしれない。私も、ユウナ様のように殺されるんだ、と愕然とした気持ちでした。
男達が私の方に近付いてきました。
涙で視界が潤み、逃げるべきだと思うのに、脚がガクガクと震えてその場に立っていることも困難なほどでした。
その時、後ろから、ぽんと肩を叩かれました。
頭が真っ白になった私は、叫びました。
「ごめんなさい!! 本当にごめんなさいぃ!! 軽率でした!!」
固く目を瞑った私の左横を、風が過ぎりました。
「今までありがとな、エイミー」
タドコロの声です。
え? 何が? と聞き返す間もなく、タドコロは私の横を通り抜けて、男達の前に進み出ました。
「ケン・タドコロだな。同行してもらおうか」先頭の男が尖った声で言いました。
タドコロは、男たちに向かってふてぶてしく頷いた後、マネージャーに深々と頭を下げました。
「マネージャー。すんません。突然ですが、今日でバイト止めます」
「……お、おう」
いつも洗練された様子を崩さないマネージャーも、動揺を隠せないようでした。
「早く、来い!」
野太い声に恫喝され、タドコロは屈強な男達に引きずられるようにして店を出て行きました。
「エイミー! 大丈夫だった? あいつら、本当におっかなかったわね!」
先輩が、私を気遣ってくれました。混乱して、訳の分からぬことを喚いてしまったのだと思われたようです。他の従業員たちも、心配してくれました。「何か、疚しいことでもあるのか?」などとからかわれたりもしましたが、私は苦笑いで誤魔化しました。
後で知ったことですが、タドコロはハッキングが得意で、アクセスしてはいけない階層にまでアクセスしてしまったようなのです。
ただのミリオタとしての興味で、軍の機密にハッキングしたのか、それとも、何か別の思惑があってハッキングしたのか。それを尋問するために、あの男達はタドコロを拘束しに来たのでしょう。
尋問の末、タドコロがどうなってしまうのか。一市民の私には分かりませんし、怖くて知りたいとも思いませんでした。
私は、もう少しタドコロに優しくしてあげれば良かったな、と思いました。
この国は、一応コーディネーターとナチュラルの共存を訴えてはいますが、コーディネーターが自らコーディネーターだと名乗り出ることはありません。ナチュラルからの差別を恐れているからです。
コーディネーターの友人たちは、ナチュラルである私を信用して、自分たちの秘密を明かしてくれました。――そして、タドコロも。
職場で、タドコロがコーディネーターであったことは、私以外には知られていませんでした。タドコロは、私を見込んで、その秘密を打ち明けたのでしょう。
つまるところ、私がタドコロから距離を置いていたのは、彼がキモイOTAKUだったからではなく、彼の真剣な気持ちが重たかったのです。
しかし、今は、彼が仕事のフォローをしてくれたこと、故障した機械を直してくれたこと。そういった、彼が私に与えてくれた親切ばかりを思い出してしまうのでした。
【あとがき】
アスカガじゃなくて、申し訳ないっす。(ふへへww)
ホテルに現れたアスカガがどうなったのか、妄想を楽しんで下され。
これでリアリティ溢れる妄想ができたら、あなたもアスカガ上級者だ。
こんな所に来てないで、今すぐ、サイトを運営することをお勧めする。
私の中で、オーブ人はこんな感じ。
事実をきちんと知らされていないし、政治は首長たちがやるものだと思ってるから、あんまり難しいことを考えたくない人が多そう。(もちろん、アスハ派のやり方や首長制を、冷静に見つめて、自分の意見を持っている人はいるだろうけど)
タドコロのキモさが生温いのが、無念じゃ……。