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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』



10.

 奇妙なほど、静かな食卓だった。いつもなら、カガリが興味の赴くままに語りかけ、アスランもそれに応じて饒舌に話すのだが、今日は、必要最小限の会話が交わされるだけであった。
 しかし、二人は共に、その異常に、気が付いてはいなかった。
 カガリも、アスランも、それぞれの思考に黙々と浸り、相手の様子を窺おうとはしない。

 アスランは、冷静になれる自分を、皮肉な気持ちで観察していた。
 切り捨てれば、楽になった。こんな勘違いのような気持ちに振り回されていた自分が、滑稽で仕方がなかった。大体、人間が悪魔に恋をするなんて、馬鹿げた話だったのだ。

 そうして、夜は更けていく――



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 
 扉の開く音がした。
 廊下から細い光が差し込んでいる。
 逆光でよくは見えないが、先程お休みと言ってお互いの寝床へと別れたカガリが寝室に入ってきたようだった。
 アスランはベッドから身体を起こして、カガリにそっと尋ねた。
「どうした? 眠れないのか?」
 カガリが首を横に振って、否定の意を伝える。金の光が左右に散る。
「アスランに、ボディバターを塗ってあげるのを忘れてたから、塗りに来た」
「別にいいのに、そんなこと……」
「毎日塗るのが効果的だって、容器に書いてあるんだ」
 カガリは、ボディバターを少量手の平にとって、体温で暖めると、アスランの手の甲に伸ばし始めた。
 幸福の香りが二人を包んでいく。
(本当に、このためだけに来たのか? 何か、別の特別な用事があったんじゃないのか?)
 どうしてそんなことを思うのだろう。
(馬鹿か、俺は……)
 マイペースなカガリのことだ。昨日、キスしてしまってからの気まずい雰囲気をものともせず、ただアスランの荒れた手にボディバターを塗りに来てくれただけかもしれないのに。
 だが、確かめたい気持ちには勝てなかった。
 アスランは、黙々と作業を進めるカガリの顔がよく見えないもどかしさに焦れて、ベッドサイドのライトを点けた。急に明るくなったことで、部屋の中は暗いままだったが、少しすると光を取り込むことに瞳が慣れてきた。
 カガリは、泣き出しそうな子どものような顔をしていた。
 寝巻き代わりに着ているサイズの合っていないアスランのTシャツが、より一層カガリを頼りなく見せている。
「やっぱり、カガリ、体調が悪いんじゃないか?」
「……大丈夫だ」
「今日ぐらいはベッドで寝ろよ。俺がソファに行くから」
「いいから、お前がこっちで寝ろよ!」
 アスランの労わりを、カガリは頑なに拒否する。
 二人の言い分を上手く解決する方法がたった一つだけあるのだが、それを口にするのは、躊躇われた。
 けれども、どうしても口にしたい衝動にかられ、アスランは恐る恐る尋ねた。
「……一緒に……、寝る?」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(何で、こんなことになったんだっけ?)
 アスランが寝そべる隣には、カガリの姿があった。
 まさか、本当にこうなるとは思っていなくて、アスランは困惑しきっていた。
 シングルベッドに二人一緒に寝ようとすると、どうしても密着するかたちになる。二人が身に付けているグレープフルーツの香りが、近付くことでより濃密に感じられ、まるで一つに融け合ったような錯覚を引き起こした。
 すぐ隣にあるぬくもりを意識しすぎて、眠気はどこかに消えてしまっている。カガリの身体に極力触れないように、苦心していると、彼女の声が聞こえた。
「……やっぱり、お前いい奴だな」
「え?」
「なんか、色々心配してくれるし……」
「そう、か……?」
「うん。あのさ、アスラン。私たちってトモダチだよな?」
「……うん」
 多分、と心の中で付け加えながら、アスランは頷いた。もう、カガリのことは好きでも何でもないが、既に他人とは言えない程に近しいのだから、敢えて言うならば『友達』としか言う他はない。
「じゃあ、ずっと一緒だよな? トモダチってそういうことだろ? 『例え離れてもトモダチ』って、テレビで言ってた」
 カガリは妙に必死だった。彼女のそんな様子に、アスランは戸惑ってしまう。
「『離れても』って、どこかに行くのか? 魔界に帰るとか?」
「行かない! そうじゃなくて、私、ここにずっといたいんだ!」興奮しすぎて、カガリは泣き出しそうだった。
 そうして、アスランも、カガリがいなくなることを、激しく嫌だと思った。
「――っごめん……。やっぱり、俺とカガリは友達じゃないかもしれない」
「ふえ……?」
 あれほど、触れないようにと注意を払ったぬくもりを、あらん限りの力で掻き抱いた。弾力のある柔らかな身体は、男の身体にぶつかって弾んだ。だが、離さぬように力を込めると、固い身体に隙間なくぴったりとくっついた。
 触れ合った場所からぬくもりが行き合い、同じ熱さになっていく。
「ごめん。俺、カガリが好きなんだ」
「私も好きだぞ」
「違う! そうじゃなくて……」
 アスランは、伝わらないもどかしさに焦れて、唇をぶつけた。
 あの時、何故いきなり口付けてしまったかが分かった。きっと、柔らかい粘膜を繋げることで、言葉で表せない感情までもが伝わるような気がしたのだ。アスランの感情は、自分の内から溢れ出し、言葉を超え、そうして口付けるという行為に至ったのだ。
 以前は一瞬で離してしまったけれど、今度は出来うる限り唇をくっつけ続けた。
「わ、分かった……?」
 アスランは、照れと不安がない交ぜになった様子で尋ねた。だが、すぐにカガリが、アスランとのキスを何とも思っていなかったことを思い出し、
「悪魔にとって、キスは、たいしたことじゃないんだったな……」と、ぼやいてしまった。
「いや、たいしたことだけど……」
 カガリの発言に、アスランはむっとした。
「じゃあ、なんで、前にした時は『そんなこと』って言ったんだよ? 俺がキスしたことは、気にならない瑣末なことだったんだろ?」
「だって、お前、気にしているようだったから、気にしなくてもいいのにと思って……」
「だとしても、紛らわしい。言い方が悪いんだ。むしろ、気にしろよ!」
「んだとー! お前だって、私の尻尾掴んだくせに!」
「尻尾を掴んだのも悪気があったわけではない! ちゃんと謝っただろう! それとも、尻尾を掴むことに、何か変な意味でもあるのか!?」
「ばか! し、尻尾を触るのは、求愛行動だ!」
「ええっ!」
 文字通り変なことをしてしまったのだと、アスランは真っ赤になった。
「な、なんだよ。いまさら……。二回もキスしたくせに……」
 アスランの様子に、カガリもつられて赤くなり、もごもごと口ごもってしまった。

 どうにも、悪魔の尻尾と触覚は、互いの身体を高め合うためにあるらしい。快楽と堕落を希求する悪魔の身体は、手っ取り早くコトに至れるようになっているのだとか。
 直立二足歩行をし、人間以上の視力と聴力を持つ悪魔が、何故、尻尾と触覚を持っているのか。その謎が解明され、アスランは、カガリがやはり人間とは異なる種であることを再確認したのだった。
 だが、不思議と嫌悪の感情は起こらなかった。むしろ、自分も悪魔であったなら、と思う。カガリと尻尾を、触覚を、擦り、絡め合わせて、同じ境地に到達できるのではないか。   
 アスランは、本能に従って、手を伸ばした。
「ア、 アスラン!」
 尻尾を掴まれて、カガリは狼狽した。今は瀬戸際で耐えているが、アスランが指一本でも動かせば、身体が疼いてしまうに違いない。
「これが悪魔の求愛行動なんだろ?」
 翠の瞳が切なげに濡れている。
 カガリは、口づけを強請るために、長い睫毛を伏せた。


 この夜、二人はとても自由だった。互いのして欲しいことが手に取るように分かり、感じたままに相手へと施した。
 人間でも、悪魔でもなく、ただのアスランとカガリとして、二人でそうしたのだった。





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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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