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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
09.
アスラン・ザラは悩んでいた。
彼は、先程から十分ばかり、入ろうか、入るまいかと、自分の家の前をうろうろしている。
彼が悩んでいるのは、昨夜のことだ。
昨夜、アスランは、居候のカガリにキスをしてしまったのだ。しかも、カガリの同意なく、いたしてしまったのである。さらに不味いことに、そのことをきちんと謝ることなく、寝室に逃げ込んでしまった。その翌朝も、リビングのソファで寝ているカガリを尻目に、ひとりでに電源が切れていたパソコンを手にして、こっそり家を出てきたため、カガリとは話していない。
だが、帰宅すれば、もう逃げられない。
カガリを不愉快にさせてしまったのではないか、カガリは傷ついたのではないか……と、色々考えているうちに、単に自分が気まずいからカガリを避けようとしていることに思い至り、項垂れてしまった。
(なんて、小さな人間なんだ、俺は……)
大きい人間が、マウント・フジぐらいだとしたら、俺は、公園の砂場で幼児が作った砂山ぐらいだな……とか、なんとか考えながら、またもや、何故いきなり了承も得ずにいたしてしまったのかと悔やむことになり、ドアの前を、行ったり来たりを何度も繰り返している。
しかし、どんなに悩んだところで、アスランは部屋に入らなくてはいけないし、カガリと顔を合わさなくてはならない。
アスランは、ふと、もしキスをする前に、自分の気持ちに気が付いていたならば、どうなっただろうか考えてみた。
もし、する前に気が付いていたら――この場合も、かなり気まずかったのではないだろうか。
アスランはカガリと同居している。カガリが風呂に入ったり、下着のような格好で、その辺を闊歩したりするのを見れば、悶々とした気持ちと格闘していたに違いない。そうして、自分の気持ちを持て余して、今のように悩むのだろう。時期が早いか、遅いかの違いがあるだけなのだ。
結局、この苦しみから逃れられないのであれば、今、向き合っておいた方がいい。
アスランは、覚悟を決めて、部屋の鍵を開けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま……」
部屋の中は真っ暗だった。カガリは、また寝ているのだろうと思って、リビングの電気を点けると、ソファの上でごそごそと金色が動く。
カガリと話をしなくては、と意気込んだアスランだったが、カガリの頬が濡れていることに気が付き、驚いて思考が停止してしまった。いつも能天気そうなカガリが弱っている姿に、アスランは戸惑いを隠せない。濡れてふるふると震える睫毛がかわいそうで、アスランは胸を痛めた。
「あ……ど、どうしたんだ?」
すん、と軽く鼻をすすったカガリは、アスランの問いに怪訝そうな顔をした。
「あ、いや……泣いているから……。あの、何かあったのか? 体調が悪いとか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃ、じゃあ……。昨夜のことが、泣くほど嫌だったとか……?」
「ゆうべのこと?」
そうだと言われたら立ち直れないと思い、激しい動悸を耐えて質問したのだが、カガリは、まるで昨夜のことを忘れてしまったかのように平然としている。
「あ、あれだよ! キ、キス……した、だろ? あの、ごめん。カガリの気持ちも聞かずに、悪いことをしたと思ってるんだ……」
「ああ、そんなことか。別に、気にしてないぞ」
あっけらかんとした様子で、そう言われてしまった。
(俺にキスされたことって、『そんなこと』なんだ……)
結局、アスラン一人だけが、盛り上がっていたらしい。カガリは、昨日も、今日も、きっと明日も、ただの能天気な奴なのだ。胸が苦しくなるほどに膨れ上がった気持ちが、急激にしぼんでいくのを感じる。カガリも、カガリを特別だと感じた自分も、酷くつまらない存在に思えてきた。
アスランは、やり場のない憤りを持て余し、カガリに傾けたその一切の感情を切り捨てることにした。
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