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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
07.
年が明ければ、後期の試験が控えている。
アスランも、単位取得のために、レポートの資料集めや、試験勉強の準備に取り掛かることにした。未だ、課題が発表されていない科目もあるので、分かるものは今のうちに、形にだけでもしておく必要がある。
幸い、一番手間のかかる実験が、仮説通りに進んだため、やり直しをせずに済んだ。後は、レポートにまとめるだけだ。
夕食後、コーヒーを飲みながら、実験データを表とグラフにまとめる作業を進める。
先に風呂に入ったカガリは、アスランがパソコンのキーボードを叩いている後ろで、テレビを見ていた。
冷えて香りが消えたコーヒーに変わって、グレープフルーツの匂いが漂う。
――ああ、幸せの香りだと思う。
カガリがボディバターを使い始めたことが、後ろを振り返らなくても分かる。
その苦味と甘さが混じった香りは、アスランの脳髄にすっきりと染み渡っていく。それに、奇妙な安堵を感じると共に、そわそわと落ち着かない感覚を味わう。
後ろを振り向きたいような、振り向いてはいけないような、僅かな葛藤を繰り返しながら、視線を液晶画面だけに向け続けた。
嗅覚以外の五感を、わざと前のみに集中させる。その意識の切り離し方は、徐々に不自然さが薄れ、やがて鼻が馴染んだのか、すっかりレポート作成だけに集中できるようになった。
しかし、
「アスラン」と、顔のすぐ横から声を掛けられ、あっという間に、アスランの努力は無駄になった。
「な、何?」
平静を装ったが、どぎまぎと心臓は速く波打っている。
「お前も手が荒れているだろ? ボディバター塗ってやるよ」
確かに、カガリの言う通り、アスランの手は荒れている。恐らく、実験のせいだろう。薬品が手に付着したり、実験器具を洗浄したりするため、実験の後は手が乾燥する。
「いや、いいよ」
「いいよ、トモダチだもん。遠慮すんなよ」
「友達……?」
「……違った?」
「いや……。でも……俺は男だから、そういうのは付けないよ」
「いいから、こっち来いよ」
華奢な手に引っ張られる。もちろん、振り払おうとすればできたはずだ。だが、その小さく引っ張る力は、林檎が地面に落ちる時に働く力のように、アスランには感じられた。
大人しく、カガリの横に座り、されるがままになる。
カガリは、ボディバターを少量手の平に取り、体温で暖めた後、アスランの手の甲に伸ばした。細く柔らかい指は、手の甲を満遍なく撫ぜると、指を一本一本、優しく包む。
「いや、そんな丁寧にしなくていいよ」
「でも、ここが一番荒れてる……」
四角く整ったアスランの爪の淵を、小さな桜貝のような爪が這う。やわやわとした刺激は、くすぐったいような、背中に軽い痺れが走るような、甘い陶酔を齎す。
「カ、カガリ……」
背を這う痺れを逃れようと身を捩る。だが、手は離せない。
すると、カガリは一番荒れている中指を掴んで、逆向けを引っ張ってちぎった。
「――っいってっ!」
あまりの痛さに、アスランが涙目になると、カガリはにやりと不敵に笑った。
「私は、悪魔だからな。お前を不幸にするために来たんだ」
「カガリは悪魔には向いていないよ」
なぜなら、カガリは優しすぎる。不幸にすると言っても、せいぜい、逆剥けを剥ぐことぐらいしかできない。そして、そんな悪戯をしても、荒れたアスランの指先を撫ぜる手は、とても優しい。
アスランのそんな想いには気がつかないで、カガリはぷりぷりと怒った。
「なんだとー! そんなこと言ってると、今に泣きを見るんだからな!」
「はいはい……」
ムキになって怒っても、ちっとも怖くない。
アスランの笑顔を見て、カガリがむくれる。
――かわいいな、と思う。
きっと笑ったら、もっと可愛い。カガリの機嫌を宥めて、笑わせることができたら、もっともっと可愛いだろうと思う。
それは、一瞬のことだった。気がついたらそうなっていた。
唇に蕩けるような優しい感触を感じて、アスランは瞼を上げた。
目の前には、大きく見開いた琥珀の瞳があった。
(…………っ!)
アスランは、もんどりを打つような勢いで後ろに仰け反り、ただひたすらにうろたえた。
カガリは、きょとんとした顔でアスランを見つめている。
居た堪れなくなって、その無垢な視線から逃れた。恥ずかしさを誤魔化すために、口元を手の平で覆ったが、男の手の平とは対照的であった柔らかい感触が思い出されて、ますます頬が熱くなる。そして、指先よりも高い頬の熱を意識して、さらに頬が熱くなるのだった。
「ごめん……。だから、その…………ごめん」
おろおろとうろたえるばかりで、カガリとは目を合わせることができないまま、アスランは寝室へと逃げ込んでしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(な、何やっているんだ……! 俺は、馬鹿なのか……!!?)
アスランは部屋に入ると、ベッドの上に飛び込み、シーツを皺くちゃにするほど悶えた。混乱した頭のまま、悶えて、悶えて、悶えまくった。
そうして、混乱と興奮の波が引いたころ、「何故、そうしてしまったのか」という問いが、非常にシンプルな答えに帰結した。
(俺は、カガリが好きなんだ……)
何故だかほっとした。認めてしまえば、楽になるのだ。胸が温かいお湯に浸かったようで、悪くない気分だ。
だが、すぐに先程の自らの行為を思い出して愕然とした。あれでは、騙まし討ちのようにカガリの唇を奪ったことになる。
「……俺は、馬鹿だから……」
アスランが独りごちた言葉は、誰にも聞いてもらえずに、部屋の静寂にひっそりと紛れていった。
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