[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
※アスカガ社会人パロ
『ご先祖様の言う通り』
1. 3(+1)=4?の同居生活 (1)
引越しの日は、快晴であった。
影一つ差し込まぬ、心に描いたそのままの写真が撮れそうな天気だ。
新しい門出には大変相応しく、前途洋々と言いたいところではあるのだが――、やはり俺の懸念は、その同居人にあった。
――本当に、大丈夫なんだろうな?
俺が、自らの心の中に呼びかけると、
――『大丈夫。上手くやる』
という返事が返ってきた。
そう。他人(それも女)と一緒に暮らすのだから、上手くやらなくてはいけない。
窓の鍵を確認し、ブレーカーを落とす。玄関扉の上下二つの鍵を閉じる。重みのある木の扉を閉めた時、慣れ親しんだカウベルの音がした。
俺は、二十五年間過ごした家を出た。
*******
新居は、築三十年の公共住宅の三階である。
オフホワイトのペンキが塗られたステンレスのドア。その脇にある表札には、三人分の名前が書かれている。
以前、部屋を一人で下見に来た時(各々の都合が悪く、別々に見学したのだ)は、ここはただの箱にしか見えなかった。しかし、こうして自分の名前が付けられると、自分の住処であるという実感が湧いてくるから不思議だ。
新しく、三人の生活をここで送るのだ。
自分の鍵を鍵穴に差し込むと、もう既に開いていた。
ドアを開け、短い廊下を進むと、左手側にはバスルームや洗面所、右手側にはダイニングキッチンがある。ダイニングの奥に木製のドアが三つあり、それらが個人スペースとなっている。
共有スペースのダイニングに、茶髪の男と、金髪の女が立っている。友人のキラと、――おそらくは、キラの双子の姉のカガリだろう。
「あ、アスラン。おはよう。これからよろしく」キラがにこやかに言った。そして、隣の女には「彼がアスラン・ザラ」と紹介し、俺には「彼女がカガリ」と、未だ初対面の俺達の間を取り持つ。
一緒に住むというのに、俺達はまだお互いの顔も見たことがなかった。それを知っているキラが、気を利かせてくれたのだろう。
彼女――カガリは、一つ頷き、俺に近付いてきた。
「カガリだ。これからよろしくな。翻訳の仕事をしている」
彼女は、はきはきとした口調で言った。差し出された小さな手に応え、俺も右手を出して遠慮がちに軽く手を握った。
――これが、カガリ……。
なかなかさばけた性格のようだ。キラの言う通り、「オンナオンナしていない」。
二人を並ばせると、確かに、二卵性の双子だと思った。顔のパーツが似ているため、「姉弟だ」と言われれば分かるが、色素の違いのせいか、あるいは性別の違いのせいか、全体的な印象としてはそっくりだとは言えない。
髪は硬質な金色で、つやつやと輝き、肩の辺りで跳ねている。印象的な瞳は金茶色で、昔、母親が着けていた琥珀のブローチを思い起こさせた。
無遠慮に見過ぎないように気をつけながら、カガリを観察した。カガリの方も、俺に興味を示している。勝気そうな瞳が、真っ直ぐにこちらを見ている。
こちらも自己紹介をしなくては。毎度「初めまして。アスラン・ザラです」から始めなくてはならない人間関係の構築は億劫ではあるが、一緒に住むのだから仕方がない。
息を吸い込み、言葉を発しようとした時だった。
『――女?』
意図しない言葉が自分の口から出たので、俺は青ざめた。琥珀の瞳が、瞬く間に険しくなり、爛々と光を放っている。
「おい! お前、見れば分かるだろうが! どうして私が男に見えるってんだよ!」
「そうだよ! アスラン! カガリのことは、前から話していたでしょ!」
「い、いや……ごめん」
二人に責め立てられ、俺はたじたじになった。
――馬鹿! 黙れ!
意図しないことを口走る己の口に、文句を言う。
「ご、ごめん。すまない……。やっぱり、女と一緒に暮らすんだな、と感慨深くなっただけだ。ほ、ほら、俺が女嫌いなのは知っているだろ?」
この言い訳、かなり苦しいな……。しかも、あまりフォローになっていない気がする。
「キラからそれは聞いているけど、ちょっと失礼なんじゃないか?」
「そうだよ。昔、散々男に間違われたから、カガリは神経質になっているんだ」
「き~ら~! お前だって、女の子に間違われていたじゃないか」
俺への叱責は止んだが、キラが墓穴を掘ったせいでカガリと口論になり、今度は双子を宥めるはめになった。……なんだか手の焼ける弟が、いきなり二人もできたようだった。
一通り騒ぎが収まると、掃除をし、運送会社から荷物を引き取り、家具を配置した。
夕飯は近所のスーパーで買ってきた惣菜を摘みながら、軽く乾杯し、一緒に過ごす上でのルールを決めた。
食事は各々で用意する。冷蔵庫と冷凍庫の個人が使用できる棚のスペース。各自の部屋の掃除は、自分達でする。共有スペースの掃除やゴミ当番は、週代わり。風呂掃除は、最後に使った人間がやる。
会話の主導権は俺が握った。二人は親元で暮らしていたせいで、自分の部屋の掃除ぐらいはするが、その他の生活する上で必要な家事に関しては、思いつかないことが多かったのだ。
今、思いつく限りのことを話し合い、暫定的に決定した。これから、また細かい部分で問題が起こるだろうが、キラであれば話合うことは容易い。カガリも……、多分、大丈夫だろう。彼女は、喧嘩をしても引きずらない、からっとした性格のようなので安心した。
それから、交代で風呂に入り、休むために各々の部屋へ戻った。
久しぶりの肉体労働に疲れを感じている。しかし、それは新生活の準備を万全に整えた達成感を伴う、心地よい疲労感だ。目覚まし時計と携帯のアラームを確かめて、早めに床に就いた。
――それを嵐の前に静けさとも知らずに……。
モドル≪ 【目次】 ≫ススム