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※アスカガ社会人パロ
『ご先祖様の言う通り』
2. こんにちは、ご先祖様 (1)
誰でも、時間を巻き戻してやり直したいことが、一つか二つはあるものだと思うが、俺の場合は、桜ももうほころびかけている或る日曜日のことだった。
こんなことになるのだと知っていたら、俺はラクスを家に上げなかったのに――
*****
「空き家になってしまうのですね。この家も……」
長い桃色の髪を揺らしながら、女が骨董品の間を練り歩く。中世の鎧(恐らく、レプリカだと思うが、その真贋を見極める眼を持たない俺には、しかとは判らない)に、彼女の小柄な身体が隠れて、白いワンピースの裾だけがちらちらと見えた。
「ああ。通勤には不便なんだ。俺もできるなら、ここから通いたいんだけど……」
引っ越そうと決めたは良いが、年度末は時間が取れず、引越しは五月の連休になった。
部屋が決まってから、急遽家の中を片付けることにしたのだが、如何せん部屋数は多いし、物も多いしで、俺は休日のほとんどを片付けと掃除に費やしていた。
そんな俺の様子を、家の者に聞いたのだろう。幼馴染のラクス・クラインが手伝いに来た。
ラクスは、十代の頃からヨーロッパへ留学し、今は声楽家として働いている。オーブへは、レコーディングの都合で帰国しているとのことだった。空気清浄機のコマーシャルで、世間に認知され、二枚目のCDを出すことになったらしい。
俺が「凄いじゃないか」と言うと、彼女は「歌手ではなくて、タレントになったようですわ」と、今の状態に満足していないようだった。芸術の方面には疎い俺にとっては、音楽の本場で歌っているというだけで凄いことのように思うのだが。
「こちらに住まない間の管理はどうなさいますの? 人が住まない家はすぐに傷みますわよ」
「一ヶ月に一回でも、空気の入れ替えぐらいはするよ。管理してくれる人を探すべきかもしれないけど、取敢えず自分でなんとかしてみる」
「そうですか」
ラクスは、今度は紅い布製のタペストリーの前で立ち止まり、金糸で刺繍された模様を眺めた。
「おい。それより、ラクス。手伝いに来てくれたんじゃないのか?」
「そうでしたわ」
彼女は、まるで今気がついたというように言った。しゃがみ込んで、ダンボールの中に優勝カップを新聞紙でくるんで仕舞う。なかなか手際よく作業をしていたが、急に動きが鈍り、小さな手で口元を覆った。
「――アスラン。少し、息苦しくありませんか?」
「いや、大丈夫だけど……まさか、ラクス……」
引越しに際して出てきた、いらないけど捨てられないものを、納戸に収納しにきたのだが、ここには生前父が道楽で集めた骨董品のコレクションが置かれている。
子供の頃、うちに遊びに来たラクスが、この部屋で倒れたことがあった。あの時は確か、病魔に冒されて夭折した、アンティーク・ビスクドールの過去の持ち主が、ラクスに憑依したのだった。
彼女は、生まれつき霊感が強く、その上、極度の霊媒体質だとかで、何もないところをじっと見つめていたり、別人のような言動(ラクス曰く、霊に憑依された状態であるらしい)をとったりすることがあった。
気分が悪そうなラクスの様子に、もういいから帰れと言おうとしたが、ラクスは突然、びくびくっと痙攣し、白目を剥いて直立不動の姿勢を取った。否、白目を剥いて見えるのは、高速で目玉が上下することで、ほとんど白目に見えているのだ。目玉の側面に軸を通して、ぐるぐる回しているかのようだった。
身の毛もよだつような光景に圧倒されていると、彼女は、掠れた声を漏らして後ろに引っくり返った。
「――ラクス!!」
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