[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
※アスカガ社会人パロ
『ご先祖様の言う通り』
2. こんにちは、ご先祖様 (3)
「ん……痛……?」
頬に、固くひんやりとした板張りの感触がある。全身が、じんじんとした痛みに覆われている。次第に、はっきりとし出した意識は、ここが俺の家のリビングだと教えてくれた。俺は、何故か固くて冷たい床の上に、うつ伏せの状態で寝ていた。
俺は、倒れたのだろうか――?
気持ちが悪い。吐きそうだ。倒れた時に、胸でも打ったのかもしれない。
目の端を、類を見ない、だが、良く知っている桃色が掠める。
「ラクス?」
「ああ。気が付かれましたか」
「俺は、一体――?」
混乱した頭で、倒れる前に、自身に何が起こったのか振り返ろうとした。
だが、その時、俺の身に信じられないことが起こった。
『やあ。気分はいかがかね?アスラン・ザラ?』
「え!?」
な、なんだ!? 口が勝手に動いた!
『私の名前はアレックス・ザラ。およそ三百年前に、ザラ家を興した者だ。お前の祖先にあたる』
「嘘だ! 信じないぞ! 俺は霊感の類はさっぱりなんだ!」
『嘘なもんか。ほれ! ほれ!』
信じられないことだが、己の意思に反して、右手、左手と交互に上がる。
「や、やめろ! 大体、お前、何しに来た! 俺はお前に用はない!」
『お前が女嫌いのせいで、ザラ家が潰える! 私は、ザラ家の始祖として、この憂うべき事態に現世に舞い戻ってきたのだ!』
「俺の他には、ザラの子孫はいないのか?」
『お前、パトリックの葬式を見ただろう。親戚はいるが、みな年老いた者たちばかりで跡継ぎがいない。ザラの名を持つ者で、子作りできそうなのは、今はお前だけだ。嘘だと思うなら、納戸の家系図で確かめてみろ』
「家系図?」
『紅いタペストリーになって、壁にかかっている』
あ、あれか!
ぐらつく頭を押さえ、力の入らない脚を叱咤しながら、俺は先程ラクスが見ていたタペストリーを確かめに行った。
タペストリーの一番上は、『Alex ZALA』という名前で始まっていた。そこからいくつか枝別れしているが、どれも途中で途絶え、最後は祖父『Douglas』で終わっている。父は一人っ子であったから、俺に従兄弟はいない。
そういえば、親戚付き合いが盛んではなかったため、ほとんどの親戚が、両親の葬儀で初対面の人たちばかりであった。父はエグゼクティブと呼ばれる立場にあったが、幸いにして、ドラマなどでよくあるような遺産騒動も起きず、俺は両親が残した財産を自由に使うことができたのだった。
『見ろ! この連綿と続くザラの歴史を! お前は、この三百年の歴史をお前の代で終えることに、罪悪感はないのか!?』
「う……! そ、それは……でも、俺は本当に結婚する気は……ましてや自分の子供を作る気なんてさらさらない!」
三百年という歴史には悪いが、俺は女が嫌いなのだ。結婚なんてとんでもない。
恋愛せずに結婚して、試験管ベビーでも設ければ問題はないのかもしれないが、相手を一体どこで見つける? その辺りの女に頼んだところで、承服してもらえるわけがない。俺が恋愛に全く興味がないからといって、他人がそうではないことを、俺はこれまでの人生経験で既に学んでいた。
第一、物のように人を『つくる』ということに、俺自身も抵抗を感じる。作って終わりではないだろう。
冗談じゃない。冗談じゃないぞ。
「おい! ラクス! 傍観していないで、何とかしてくれ!」
「できませんわ。わたくしにできるのは、霊視や霊媒だけです」
「じゃあ、ずっとこのままなのか?」
「アレックスの願いを叶えてさし上げれば、あるいは……」
俺がザラ家の存続のために、跡継ぎを作れば、アレックスは成仏する――?
「い、嫌だ~~!!」
俺の虚しい叫び声が、部屋に木霊した。
モドル≪ 【目次】 ≫ススム