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※アスカガ・戦後
『対流』の続編

『熱伝導』

 





 煌々と輝くシャンデリアの下を、二つの人影が足早に進んでいく。
 そのうちの小さい方が、少し後ろを行く大きい影の方を振り返ると、廊下の要所に配置されている警護の者達には、聞こえない声で話した。しかし、例え聞かれたとしても、日本語での会話は、彼らには理解できなかっただろうが。

「あ~あ、お前のせいでとんだ手間を取らされた」
「……申し訳ありません、代表」
 アスランには、アスランなりの理由があってしたことだったが、カガリにしてみれば、とんだ迷惑だっただろう。彼は、自国の国家元首にするように、慇懃に頭を下げた。
「まあ、いいけど……。正直、あの場を連れ出してくれたのは助かった。オーブの軍縮率について突っ込まれて、困っていたんだ。ありがとう」
「え?」
「……会話を聞いていたから、助けてくれたんじゃなかったのか?」
「…………」
 言葉に詰まり、気まずそうに口を押さえる。そんなアスランの様子に、カガリは首を傾げた。
「何だよ?」
「いえ……」
「何だよ。言えってば」
 ごにょごにょと口の中だけで呟くと、苛立ったカガリが厳しく追及した。
「もっと、はっきり言えよ」
「……その、……あいつカガリの胸ばっかり見ていた」
「…………あ……、なんだ、その……。……そうか」
 ほんのりと、カガリの顔が朱色に染まる。アスランがなけなしの自尊心で隠した嫉妬は、カガリに正しく伝わってしまったようだ。
 未だ、彼女の口はへの字に曲がっていたが、堪えきれなくなったのか、はにゃりと口角が崩れた。思わず笑ってしまった、いや、喜んでしまったという表情だった。
 カガリは、誤魔化すように、あつい、あついといった風に、手の平でパタパタと顔を扇いだ。
「……ありがとな。セクハラなんて日常茶飯事になっていたから、怒るのも忘れていたんだと思う」
「いや……」
 はにかんだ笑顔を見せるカガリに、彼女がまだ歳若い娘であったことを思い出す。それは、先ほど、他国の要人の前で見せた、自分の価値を知っている泰然とした笑みとは対照的で、まだ青い花の蕾が、僅かにその身をほころばせたような笑顔であった。
 しかし、それは一瞬のことで、バンケット会場の入り口に辿り着くと、緩んだ頬がきりりと締まり、決して目を逸らすことを許さない圧倒的な存在感を纏い始めた。

 扉を開ければ、眩いばかりの光が、二人を包んだ。
 光は、カガリの明るい髪で反射し、まるで彼女自身が内から光を放っているようだった。先ほどの緑のものよりも、今着ている紺のドレスの方が、その髪色を際立たせていた。
 やがて、会場に戻ってきたカガリと話をしようとする者達が、我先にと集まってくる。――この協議の主役であるカガリ・ユラ・アスハと。
 アスランは、会話の邪魔にならない位置でありながら、いつでもカガリを庇える距離まで下がった。

 

 洗練されたドレスや燕尾服の下には、薄汚れた思惑が隠されている。
 世界は、過去の反省から、歩み寄りの姿勢を見せていたが、未だ、協調の道には程遠い。紳士淑女然として、話合いの席には着くものの、いつ攻撃されるかと疑心暗鬼になり、テーブルの下では互いにナイフを向け合っているのが現状であった。

 今回の協議では、地球全土を覆うエネルギーと通信の問題が、議論の焦点となっていた。
 全ての核分裂の運動を抑制するニュートロンジャマーの投入により、電力供給を原子力発電に頼っていた地域は、経済活動の低迷を余儀なくされた。加えて、ニュートロンジャマーには、電波撹乱作用という副次的効果があり、多くの情報通信企業が倒産に追い込まれることとなった。
 ニュートロンジャマーの除去は、不可能に近く、地球上の諸国は、ニュートロンジャマー・キャンセラーの大量保持のために、保持と利用に関する条約の緩和を求めていた。キャンセラーの有効範囲は、ニュートロンジャマーのそれに比べると極めて小さく、キャンセラーの大量生産、あるいは改良が必要だったのだ。
 当然のことながら、プラントはそれに猛反発した。いきなり核ミサイルを撃ち込んでくる野蛮な輩に対して、その手綱を緩めることなど、みすみすと許すわけにはいかないからだ。
 協議は紛糾したが、そこに介入する者があった。――オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハである。
 カガリ・ユラ・アスハはまず、オーブはこの問題に関して、自前の科学技術を提供する用意があると言った。
 これには、多くの国が驚きを隠せなかった。オーブは、独自の開発系統で、電力供給と通信の危機を乗り切り、それによって優位性を高めていた国である。他国に、自由に電力と通信を使われたのでは、その優位性が保てなくなる。
 彼女は続けて提案した。
 オーブ国内の工場だけでは、生産が追いつかないため、いくつかの国に工場を作り、現地の雇用を増やす。さらに、太陽電池に使われる、化合物半導体の原料であるレアメタルの何割かを、プラントから輸入する。
 この誰も損をしない提案は、全席一致で賛成された。
 自分たちの出来る方法で、プラントと地球諸国を繋ぐ。これが、コーディネーターとナチュラルの争いを横目で眺め、殻の中に閉じ篭っていた中立国オーブの、新たなる国家戦略であった。
 もちろん、オーブにも、隠された思惑はある。自国の科学技術製品を輸出することで、外貨を獲得し、戦争で落ち込んだ経済を立て直す。そして、万が一、技術が盗まれたとしても、切り捨てることができるものを選んでいる。
 諸外国もそれは分かっている。だが、分かっていたとしても、オーブの提案は魅力的なものであった。
 戦後、戦勝国であるオーブは、世界への影響を伸ばしつつある。誰もが、かの国の存在を、無視できないものと感じていた。



 アスランは、歓談に勤しむカガリの横顔を見つめながら、生温い水が、身体を包んでいくのを感じていた。

 ――浮き上がった熱は、下を流れる理性と合流し、冷まされていく。

 カガリはこれからも、この熱くもなく、冷たくもない水の中を、泳いでいくのだろう。例え、熱くなったとしても、熱は伝導し、いつしか温くなっている。そうなる術を、身につけている。
 そして、カガリを見守るアスラン自身も、この生温い水の中に、自ら身を投じているのだった。
 



 









 
【あとがき】
設定はあったものの、一つの話にまとまらなかったもので、続編を作ってみました。やっちまった感でいっぱいです。
実際には、CE.73の時点で、既にエネルギー問題は解決しています。(この間読んだASTRAYの小説には、『Nジャマーの齎したエネルギー危機により、代替エネルギー、特に太陽電池の開発が急速に進み――』とありました。)


 

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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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