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※シン・アスラン(アスカガ)・日本風大学生パロディ
『プレゼント ~ From Athrun To Cagalli ~』のおまけ的短編
(本編をお読みになってから、こちらをご覧下さい。)
『シン・アスカの災難』
シン・アスカがトダカゼミの研究室に入ると、二学年上の先輩アスラン・ザラがいた。
シンは、まだ一年生であるから、ゼミは選択できない。それでもトダカゼミに出入りしているのは、高校の時、オープンキャンパスで説明を受けた研究に興味を持ったからだ。その時シンに研究室を案内してくれたのは、当時二年生ながらゼミに出入りしているアスランだった。
一年生のうちから研究室に出入りしているおかげで、他の学生達より、得をすることも多い。レポートや論文の書き方、資料の当たり方、ゼミ発表の進め方、一年生のうちに読んでおくべき専門書、そういった研究に必要なノウハウを直接訊くことができる。時には、テストの過去問まで手に入ることもある。
だが、それと同時に雑用を頼まれることも多く、今も、研究室の本棚の整理を任されている。
本を大量に抱えたシンに気がつき、パソコン画面を見ていたアスランが振り返った。
「お、精が出るな」
「……はあ」
「手伝おうか?」
「あ、いや、すぐ終わるんで。どうぞ、続けて下さい」
「いいよ。ネットサーフィンしてただけだから。家のパソコンが調子悪くて、研究室のを使わせてもらってたんだ」
禁止されているわけではないが、私用で研究室のパソコンを使うのは、あまり良いこととは言えないだろう。シンは、真面目なアスランがそうまでして、何を調べていたのかが気になり、画面を覗き見た。
「アスランさん、ここのブランド好きなんスか?」
アスランが見ていたのは、駅中のビルにもテナントが入っている、人気家具メーカーのホームページだった。
「俺は、こういうのよく分からないけど、女性の間では人気なんだろう?」
「みたいっスね。インテリアに拘ってる若い男にも、人気があるみたいですよ。この間、雑誌に載ってました。プレゼントっスか?」
「うん。カガリにね。今月、誕生日なんだ」
――なんだ、あの女にかよ。
アスランの目の前で、思わず舌打ちしそうになった。 シンは、カガリが嫌いだ。おそらく、彼女だけなら、ここまで悪感情を抱くこともなかった。彼が、カガリに辛く当たってしまうのは、アスランの彼女だからだ。
憧れている先輩が、彼女の前では締まりのない顔をしている。それだけでも許しがたいのに、シンの目には、カガリがただアスランの愛情を食べているだけのように見えた。
――でも、アスランさんは、あの女が好きなんだよなあ……。こんな一生懸命、プレゼントの下調べしてさ。
プレゼントは、小鳥の置物だろうか。今、丁度、画面に映し出されている北欧風のインテリアは、如何にも女性好みであるように思われた。
が、アスランはさらにスクロールバーを下げて、食器や調理器具のページを見ている。
「彼女さん、料理とかするんスか?」
「実家暮らしだから、基本的には母親がやってるよ。たまに手伝ったりはしてるだろうけど……。あ、でも、前に食べさせてもらったのは、けっこう上手かった」
「へー……」
自覚のない惚気に、シンが顔を顰めていると、アスランが「よし、これにする!」と声を上げた。
「あ、そのマグカップっスか? 可愛いっスね」
正直、カガリへのプレゼントなんてどうでも良いので、適当に褒めてみる。
だが、シンの予想は斜め上、いや、斜め下の角度で裏切られることとなった。
「ううん。これだよ」
アスランが指差したのは、なんと『醤油差し』であった。
――な、なんで!!?
何故、醤油差しなのだろう。意味が分からない。
シンは、混乱しつつも、慎重に言葉を選びながら訊ねた。
「小花柄で可愛いっスね。……なんでこれにしたんスか?」
「カガリの家の醤油差しが、調子が悪いらしいんだ。でも、買い換えないみたいから、プレゼントしようかな、って思って。やっぱり、きちんと使ってもらえた方が、プレゼントする側としても嬉しいじゃないか」
そうして、アスランは、シンの方に爽やかな笑顔を向けた。
「それにしても、シンにも一緒に見てもらえて良かったよ。センスの良いものって、俺にはよく分からないから。おかしなものを選んでしまったら、喜んでもらえないもんな」
「いや、全然おかしくないっスよ」
――いや、いや、いや! 全然、おかしいよ!!
まだ買い換えないにしても、使えないとなれば、さすがに買い換えるだろう。
確かに、相手に必要なものをプレゼントすべきだとは思う。
だが、本当に良いのだろうか。年若い恋人へのプレゼントが、『醤油差し』で。
しかし、おかしなプレゼントによって、二人の仲が悪くなったとしても、シンには係わり合いのないことだ。
そうして、暫くの間、そのおかしなプレゼントのことを、考えないようにしていた――――のだが、そのプレゼントが、憧れの先輩の株を著しく下げてしまうことに気が付き、シンがキャンパス中を駆けずり回って、カガリを捜し出したのは、五月十九日のことであった。
【目次】