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※アスカガ・戦後




「アスラン。話があるんだ……」

 いつになく物々しい雰囲気で呼びかけるカガリに、アスランは怪訝に思いながらも、彼女の正面に姿勢を正して座った。
 そんなアスランの様子を受けて、カガリの顔がますます強張る。
 言いづらい話なのかもしれない。話の内容は検討が付かないが、カガリが話しやすいように仕向けてやろうと思い、飲み物の用意を申し出ると、彼女は迷いながらも断った。
 その後、話し始めるかと思えば、カガリは言いづらそうに、何度も口を開いては止める。流石のアスランも焦れた。
「で、話って何だ?」
 このままでは埒が明かないので、アスランは話をずばり切り出す。すると、カガリが上擦った声で言った。
「わ、別れて欲しいんだ!」
 一瞬、何を言われたのか解らなかった。
 しかし、言葉に含まれた毒が、じわりじわりと廻り始め、アスランの鼓動を苦しくさせる。何とか翻意させようと言葉を考えるが、口がカラカラに渇いて何も言えない。
「……わかった」やっと捻り出した言葉が、これであった。
 いつも物怖じせずに相手の瞳を見て話すカガリが、気まずそうに瞳を合わせようとしない。あの美しい琥珀とまみゆることができず、アスランは少し寂しく思った。
 だが、以前とは違って、直接向き合って別れ話をしてくれた。それが、カガリなりの誠意の見せ方なのだろう。
 自分がカガリから離れることが出来ないことは分かっていた。故に、別れるとしたら、どちらかが死ぬ場合を除いて、無理矢理引き裂かれた時か、カガリの気持ちが離れた時だろう。そして、カガリがアスランを切り捨てるならば、それは彼女なりの大きな覚悟があってのことであろうから、以前のように自分の気持ちを押さえ付けるだけの醜態は晒すまいと、心に固く決めていた。
 それでも、心は儘ならない。
 今からこの気持ちを抱えて、どのように生きていけば良いのだろう……。
 知らない町で迷子になった時のように途方に暮れながら、部屋を出ようとしたその時だった。
 背中に柔らかな衝撃があった。
 見ると、カガリが必死になって、アスランの胴にしがみついている。
「ごめん! 冗談! 冗談なんだ!」
 信じるとは思わなかったんだ。今日はエイプリルフールだから、アスランを驚かせようと思って――カガリが必死になって、言い訳をしている。
 常であれば、それを許してやるだけの度量はあった。――が、
「冗談でも、そんなこと言うな!!」
 血がかあっと頭に昇る熱を感じ、胴にしがみついているカガリを振り払う。その瞬間に、左目の縁から涙がこぼれた。
 男の低くて大きい声と、振り払われた力の荒々しさに、カガリが身を震わせる。それがまた、アスランの癇に触った。
「どうせ、カガリには分からないんだ……。俺ばっかりが、カガリを好きだから……」
 言うまいとしていた弱音を吐いてしまった。
 アスランとだけ話し、アスランのためにだけ笑顔を見せ、アスランだけの世話を焼いてくれる。そんな都合の良い人間は何処にもいないし、オーブの代表首長である彼女を、ただの女に成り下がらせて、アスランが後悔せずにいられる訳がない。
 そう受け止めていても、時々どうしようもなく不安で寂しくなる時がある。
 ――いつか、カガリを失うのではないか……と。
 カガリはアスランを愛してくれている。それは自惚れではなく、事実として認識している。
 だが、アスランとカガリは、愛し合いさえすれば、一緒にいることを赦される立場にはいない。
 周囲に、さらに正確に言えば時代に認めて貰うために、アスランは必要な努力をし続ける覚悟がある。
 しかし、カガリは――? 彼女の意思を、アスランが決めることは出来ない。
 一番怖かったのは、外部からの圧力でカガリを失うことではなく、彼女自身が手を伸ばしてくれなくなることだった。カガリの冗談は、カガリを失うかもしれないという不安の、最も脆弱な部分を突いたのだ。
「ごめん。アスラン。……ごめんなさい」泣きそうな声でカガリが言った。
 もう、許してやれと囁く声が聞こえる。カガリは、ただの冗談でそう言ったのだ。
 そう。ただの冗談で――。
 だからこそ、アスランは赦し難い怒りを感じたのだ。
 無邪気なまでに悪気が無い彼女を、傲慢だと思う。アスランがどれ程カガリを想っているか、知らないに違いない。
 如何ともし難い激情を、何とか押し留めて矜恃を保っている。逆に言えば、矜恃を喪えば、自分でもこの激情を制御することができない。
「……悪気が無かったんだろ? つまり、悪いと思っていないってことだ。それなら、もういい……」
「もういいって、どういうことだ?」
「……カガリは、それほどでもないんだろ? 前に、想う自由をくれさえすれば、それでいいと言ったのは、俺だ。惨めな俺に、情けをくれて有り難う」
「な、なんだよ! それ!」
「事実だろうがっ!」
 悪辣な言い様に、カガリは腹を立てた様だったが、アスランが皮肉ではなく芯から怒っていることを知り、焦燥の色を滲ませた。
 そんな彼女の様子が、益々アスランを苛立たせる。
「……もういいんだ。疲れたから、今日はもう帰る。一人にしてくれ」
「っヤダ!」
 カガリがアスランの裾にしがみついた。
「離してくれ。このままここにいると、言わなくていいことまで、言ってしまいそうだ」
「イヤだ! だって、アスラン、私の気持ちを誤解してる!」
「誤解も何も、何も聞く必要が無いと思うが」
「頼むから聞いてくれよ! 私もアスランのことが好きだ! そんな風に不安になるのは、お前だけじゃない。私もだ!」
 同じではないと、何度言えば分かるだろう。それを繰り返し説明しても、分かってもらえないだろうし、その度にアスランは惨めな思いをするだけなのだ。
「――もう、いい加減にしてくれないか!!」
 睨み付けてやると、カガリは、身がすくんで動きが取れなくなった。
 そうして、どこかせいせいした思いで、再び扉に手を掛けた時、ぽこんという鈍い音と、鋭い痛みがアスランの後頭部を襲った。
 振り返ると、足元に女物の白いパンプスが転がっている。
「何をするん、だ――う゛っ……」パンプスを拾い上げたその瞬間。
 唇に衝撃と痛みを走った。――カガリが目一杯の勢いで唇をぶつけたために、歯が当たってしまったらしい。
「……痛い」
 舌に鉄臭い塩気を感じながら、カガリを詰るように睨んでやる。
「話を聞かないからだ。バカ!」
 瞳に涙をいっぱい溜めながら、カガリも負けじと睨み返してきた。彼女の唇には、アスランものとおぼしき血が着いている。
「俺が悪いの?」
 ぐず、と鼻をすすってカガリが言う。
「……私が悪い……。でも、アスランもちょびっと悪い」
「『ちょびっと』って。俺は『全然』悪くない……」
 もう本当は、大分怒りを削がれてしまったのだが、それでも飲み込めない蟠りのために、素直になれないでいる。
 するとカガリが唇の端に口付けてきた。そうして、アスランの瞳を覗き込みながら、真剣な目をして言った。
「お願い……。信じて欲しい……」
 カガリの唇は柔らかいが、場所が少しずれているために、物足りない。
「……これだけ? これだけでは、分からない」
カガリは、一瞬瞠目すると、嬉しそうに琥珀の瞳を細めて、アスランの身体の中で最も柔らかい部分に、自分のものを重ねてきた。
 ふわふわとした温もりは、やがて濡れた音を奏でる。カガリの小さな舌先が、傷口をなぞり、痛みとない交ぜになったある感覚が背筋を震わせる。
「……ごめんな。痛かった?」
「……うん、いや……」
 照れ臭くて、アスランはカガリから瞳を逸らした。琥珀の瞳に映り込む自分の顔が、見るに耐えない程物欲しそうで、締まりが無かったからだ。 そんなアスランの気持ちには気が付かないようで、カガリは逸らされてしまった翡翠に表情を曇らせた。
「……ごめん。私が悪かった。少しアスランが慌ててくれたら嬉しいと思って、あんな嘘言ったんだ。でも、エイプリルフールだからって、言っていいことと悪いことがあるよな。本当にごめん。
――でもさ、私は本当に、」
「いいよ。本当は分かっているんだ」
 もう、妙な虚勢や、卑屈な態度は止めることにする。――多分、また不安に駈られて、同じようなことを繰り返すだろうけど。

 ――そう。本当は、分かっている。
 カガリがアスランを愛してくれていること。それと同じぐらい、肩に背負っているものを大事にしていること。そして、両者は比べることができないぐらい、カガリを独占していること。
 だから、カガリは両方を手放さないことを選んだ。
 それが、彼女にどれだけの負担を強いているのか、分からないほど蒙昧ではない。アスランも同じだからこそ、それが分かるのだ。
「俺も、こんな冗談で不安になるぐらい君のことが好きだ」
 カガリの言葉なら、何でも信じてしまう程に、アスランはカガリを愛している。
「私も、つまらない冗談で気持ちを試したくなるぐらいアスランが好きだ」


 二人は微笑み合うと、今度は仲直りのためではなく、互いをこんなに想っていると伝えるために、唇を重ることにした。








【あとがき】
非常にありがちなネタで申し訳ないです。
去年携帯で書いていたら、完成させるのが4/1を過ぎてしまったので、今年アップしてみました。
これのカガリver.があるはずなんですが、どこにいったがか分からない……(もうちょっと探してみます)




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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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