忍者ブログ
種ガンダム(主にアスカガ)のブログサイト
87. 86. 97. 85. 84. 83. 82. 81. 80. 79. 78.
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』

 



03.

 次の日も、そのまた次の日も、カガリはアスランの家から出て行かなかった。
 何回目かの食事の時、カガリが寿司を食べたいと言い出したので、アスランは仕方なく出前を取ってやった。
「なあ、アスラン。私、上特寿司がいい。こっちの方が、値段が高い」
「特寿司で我慢しろ!」
 気を使って特寿司を頼んでやったのに……と、アスランは心の中で毒づいたが、勝手に居座る悪魔相手に気を使っている時点で、もう既に色々と手遅れである。
 文句は言ったものの、寿司が来ると、カガリは嬉しそうに食べ始めた。
 食べたいものから順番に摘むカガリ。一方、アスランは左上から順に寿司を摘んでいく。
 しかし、何故かあるネタだけは避けていく。それだけが、丸い桶の空いた上半分の空間に、ぽつんと置き去りになっている。
「どうして、それだけ食べないんだ?」カガリは不思議に思って訊いた。
「鯖は食べられないんだ」
 アスランの弱点を見つけたカガリの目は、爛々と輝いた。嬉々として、しめ鯖を箸で掴む。
「好き嫌いはいけないんだぞ!」
「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃなくて……」
「ええい! つべこべ言わずに食べろ!」

 しまった! ――と思った時には、もう遅かった。
 カガリは、アスランの口を無理矢理こじ開けて、しめ鯖を放り込んだのである。吐き出そうとしたが、思わず口の中の物体を飲み込んでしまった。
「ほら、ちゃんと食べられるじゃないか」と、カガリがにっこり笑う。
 暢気な声にイラつきながら、何とか吐き出そうと口の中に指を突っ込んだが、焦りで上手くいかない。冷や汗が脇からどっと溢れ出す。
(まずい、まずい、まずい、まずい……)
 びくん! とアスラン身体が跳ねた。息が乱れ、心臓が高鳴っている。
 チアノーゼを起こしたのだ。
 顔がぱんぱんに膨れ上がり、爪の色が青くなってきた。
 やがて、立っていることも出来なくなり、床との距離がだんだん近付いていく。
 ああ、これは死ぬな、と思った。
(さすがは、悪魔。その名に恥じぬ働きっぷりだ……)
 アスランの脳が最後に捉えた映像は、驚愕に震えるカガリと、記憶の中の父と母、そして青いガンダムだった。
 これが走馬灯というやつなのだろうか。
(……しかし、何故ガンダムなんだ?)
 不思議に思って、もっと、きちんと捉えようと意識してみたが、靄がかかったように景色が霞んでいった。
(カガリは最後に見たもので、父と母は俺の家族で……ガンダムは……ガンダムは…………あれ、確かクリスマスに買ってもらったんだよなあ……)
 小学校に入る前だから、五歳か六歳のクリスマスプレゼントだろうか。赤いのがいいと母にせがんだのだが、母に買いに行くのを頼まれた父が、子どもたちの間で一番人気のものなら間違いがないと、間違えて青いのを買ってきたのだった。
(俺、あのガンダムどうしたんだっけ?)
 死ぬ直前ぐらい、もっとまともなことを考えれば良いのに。とも思うが、死ぬ直前だからこそ、こんなくだらないことしか思い出せないのかもしれない。
 ところで、さきほどから聞こえてくる、この「ひっく、ひっく」という音は何なのだろう。彼は音源を辿るべく、耳をすませた。あっちのお花畑で手を振っているおじいさんが発したものだろうか。
 奇妙な「ひっく、ひっく」という音はだんだん大きくなってくる。
 自分のすぐ右側で、音がすると思ったら、視界が急に開けて、白い蛍光灯が見えた。
「俺、生きてるのか……?」
 見たことのないおじいさんが、お花畑で、おいでおいでをしているのを見たとき、もう死んだのだとアスランは思ったのだが――

「うわあああ~~~ん!!!」
「……カガリ?」
 アスランの寝ているベッドの右側で、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしているカガリが大声で喚いている。
「し、死ななぐで、良がっだあ~~~!!!」
(なんだ。こいつは……)
 カガリの汚い顔に、アスランはひいた。
「別に、俺が死ななかったからと言って、世の中がどう変わるわけでもあるまいし……」
「ばかか!? お前は!!」
 カガリは熱(いき)り立って、叫んだ。はらはらと頬を流れた雫が、蛍光灯の白い光を反射させ、アスランの元へと降ってくる。
「私は、お前がいなくなったら悲しい!」
 彼女は、なんの衒(てら)いもなく言い放った。それは、無意識下ではあるが、アスランの自尊心をくすぐり、心臓の裏側にある柔らかい部分を掴んだ。
「……ごめん」
 謝罪の言葉は、驚く程するりと出た。
 カガリは、それを聞くと、ぶんぶんと首を横に振った。
「わたしも、ごめん……。嫌がっているのに、無理矢理食べさせたから」
 アスランは、その通りだな、と思ったが、肯定はしなかった。本心から反省しているカガリに、追い討ちをかけるようなことを言うのは憚られたからだ。人付き合いが苦手な彼にも、それぐらいの気遣いはできる。
「ごめんな……。お前が“サバエネルギー”とかいうやつなんだって、知らなかったんだ」
「それを言うなら、“鯖アレルギー”だ」
 いちいち細かい男である。
 アスランは、項垂れるカガリを安心させるように、布団から点滴をしていない右腕を出して、膝の上で握りしめられている手の甲をぽんぽんと叩いてやった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あ! ザラさん気が付かれました~?」
 よく通る朗らかな声が、カーテンを開けて入ってきた。白衣を着ているところを見ると、彼女は看護師らしい。
「良かったですね~、助かって。危ないところだったんですよ~。彼女さんも良かったわね」
「彼女じゃないです!」
「彼女じゃないぞ! 悪魔だぞ!」
 二人同時に「彼女ではない」と、きっぱりと否定したが、その意味は異なる。
「はあ……」と、看護師は戸惑い、カガリの格好をじろじろ見て、何か納得したような、生ぬるい表情を浮かべた。
 看護師からは、入室してきた時の愛想が消え失せ、淡々と、今夜は入院して様子を見てから明日以降に退院だと申し伝えた。
 アスランは、看護師が誤解したことを悟った。
「違うんです! これは、俺の嗜好ではありません! 断じて違います!」
 彼は看護師の誤解を解き、事実を伝えたかっただけだ。
 しかしながら、それは結果的には成功しなかった。看護師は、冷たく「お大事に……」と言い放って出て行った。
 アスランは、自分の考えが至らなかったことを後悔した。カガリが大学やバイト先には付いて来なかったので、奇怪な格好をした女と一緒にいることが、どのような結果を齎すのか予測していなかったのだ。
 緊急事態を除いて、今後、アスランがこの病院を利用することはないだろう。
「その羽とか尻尾とか、なんとかならないのか? 目立ってしょうがない……。その服も、もう少し布地が多い服に着替えた方がいい……」彼はもう、酷く疲れていた。
「ダメだ! 仕事中だからな!」
 毅然として彼女は言った。どうやら、このボンテージ服は、悪魔の制服であったようだ。
「もう、仕事は終わったんじゃないのか?」
 俺はお前に殺されかけたんだが……。ということは、誰かに聞かれるとマズいので、口にはしなかったが、事実、アスランはカガリのせいで不幸な目にあったのだ。もう充分、悪魔にお取引願っても構わないはずだ。
 しかし、それは彼一人の楽観的な考えであった。
「いや……。任務が成功したのだったら、使い魔が、次の仕事を言いに来るはずだ」
(殺されかかって駄目なら、次は本当に殺されるんじゃ――?)
 そう思いながらも、どこかで安心もしていた。カガリは恐らく、アスランを殺さない――『殺せない』はずだ。アスランには、確信があった。

 

 彼は、今までその類稀なる能力と意思で、自身がしなければならないことを成し遂げてきた。だが、その一方で、本当に悩んでも解決できない問題は、そのままにしておく傾向があった。悪魔との触れ合いは、その悩んでもどうしようもない問題の一つであり、悩み続けて何度も同じところを辿っている。
 とりあえず、命の危険性がないことも分かっているため、アスランはカガリを放っておくことに決めた。






※※実際の鯖アレルギーは、ここで書かれているものとは異なります。詳しく知りたい方は、ぐぐって。※※

モドル≪ 【目次】 ≫ススム 


 

拍手[8回]

PR
この記事にコメントする
NAME : 
TITLE : 
COLOR : 
MAIL ADDRESS : 
URL : 
COMMENT : 
PASSWORD : 
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
ブログ内検索
プロフィール
性別:
非公開
自己紹介:

今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
カウンター
フリーエリア
忍者ブログ | [PR]
shinobi.jp