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※アスカガ・戦後・親子ネタ
※若干の大人描写有り
※本編に出てこないキャラが出てきます。

『一つ線を足して』




 ――ああ、帰ってきたんだな。

 鉄柵の門を潜り、石で舗装された道を暫く行くと、見慣れた舘が目に入った。
 それを目にした途端、カガリは、しみじみと帰る場所があることを有り難く思った。
 仕事から帰った時には、いつもそういう感慨が胸に沸き上がるものだが、今回のように暫く家を開けた時には、その感慨はより一層強くなる。
 官邸に詰めている時も、生活には不便はないはずだが、安ぎとは程遠いものだった。やはり、待っていてくれる人がいる家は違うということだろうか。
 運転手は、黒塗りの車を玄関とカガリの距離が最も近くなるように停めて、恭しくドアを開けた。彼はそのままカガリの斜め前を歩き、屋敷の玄関扉も開けてくれた。今日は、出迎えの者がいないので、その代わりをしてくれたのだろう。
 カガリが、運転手である初老の男に礼を言うと、彼も暖かく微笑んで、カガリの多忙を労ってくれた。
 警備の者にも声をかけ、屋敷の中に入ると、屋内にはまだ明かりが点いていた。玄関から続く吹き抜けの空間には、大きな振り子時計が柱に掛かっていて、時を刻む音だけが夜の静寂に響いている。

 そこへ、カガリの帰宅に気が付いたマーナが、階段の隣にある使用人の部屋から顔を覗かせた。
「まあ、まあ、まあ。お帰りなさいませ。お出迎えもせず、申し訳ございません」
「いいんだ、マーナ。一応、今日帰るとは伝えてあったが、何時になるとは言わなかったからな。私も、まさか、こんなに遅くなるとは思わなかった」
「遅くまで、お疲れ様でございました」
「マーナもな」
 幼い頃から仕えてくれているこの乳母も、既に頭の半分が白く変じ、身体のあちこちに不調をきたしている。もう楽隠居をしても良い年齢なのだが、本人が身体が動くうちは、カガリの傍で働くと言い張っているのだ。
 言い出したら聞かないこの老女のために、若い自分が気を使ってやらなければならないはずなのに、このような時間にまで付き合わせたことを申し訳なく思った。
「子どもたちは?」
「もう、すっかりお休みでございますよ。今日は、お父様と沢の方へ遊びに行かれましたから、お疲れなのでしょう」
「そうか……」
 本当は寝顔だけでも見たかったが、顔を合わせるのは明日にしようと思った。明日の午前は、家にいられる。上の息子は、妙に気配に悟いところがあるから、疲れて眠っている所を起こすのも可哀想だ。
「私も、もう寝ようかな……」
「お食事とお風呂は?」
「私のことはいいから、もう、マーナも寝ろ」
「……では、お風呂のご用意だけ致しましたら、先に休ませていただきます」
 仕方のない奴だ、とカガリは溜息を吐いた。
「では、頼む。それが終わったら休むんだぞ」
「かしこまりました」

 書斎で少し用事を済ませた後、風呂場へ向かった。
 湯船からは、ゆっくりと休めるように、良い香りのする湯気が立ち上っていた。凝った身体をほぐしながら、湯に浸かる。
 そのまま何時までも浸かっていたかったが、眠ってしまいそうだったので、少し物足りないぐらいで上がることにする。
 風呂から上がると、軽食が用意されていた。風呂の支度が終わったら休んで良いと言っておいた乳母が用意したのであろう。しかも、夜中に食べても胃の負担にならないように考えられている。
「律儀者め」
 乳母の小憎いまでの心尽くしに、苦笑してしまう。
 手を合わせて有り難く頂くと、腹がくちくなったことで、余計に眠くなってきたので、歯を磨いて寝室へと向かった。

 カガリがベッドに仰向けに横になると、その左側にあった影が動いた。暗闇でも鈍く光る緑の瞳がこちらを見ている。
「起こしてしまったようだな」
 カガリが語りかけると、アスランは寝起きのくぐもった声で答えた。
「君が帰ってきた時から、起きてたよ」
「……そうか、疲れているのに申し訳なかったな。今日は子守りで大変だったんじゃないか?」
「帰る時に、『まだ帰りたくない』って泣かれてしまった」
「ふふ……。久しぶりに、お前と外に出掛けられたから、嬉しかったんだろうな」
「聞き分けがないから、叱ってやったよ」
 きっと叱られたのは下の息子だ。叱られたことで彼はさらに激しく泣き、アスランを困らせたに違いない。
 アスランは父親になって、もう何年も経つのに、未だに子どもに振り回されている。
 だが、それも嬉しくて仕方がないようだ。その証拠に、子どもを見つめている時の彼の瞳は、とても甘ったるい。恐らく、自分も子どもを見ている時は、そういう眼差しをしているのだろう。
 そんなことを思っていると、ふと、自分の上に影が差していることに気が付いた。
「アスラン?」
 寝起きの熱い手が、カガリの前髪を透く。
「明日は、遅くても良いんだよな?」
「うん。昼食まで家にいる」
「そう……」
 手の平に頬を包まれ、じっと瞳を覗き込まれる。
 ――合図。
 カガリが瞼を閉じた瞬間、柔らかいものが唇に触れた。
 浅く、深く、唇を貪られると、頭がぼおっと白く霞んでいく。先程までカガリを支配していた眠気は何処かに追いやられ、アスランと触れ合っている熱を懸命に追いかけようと、感覚が鋭敏になっている。
 胸の先端が尖り、服と擦れて疼く。先程から脇腹をゆるゆると撫でさすっている左手は、どうして胸に触れてくれないのだろう。
 カガリがもどかしさに身悶えていると、アスランが動きを止めた。
「……アスラン?」
「足音がする。子どもたちだな……」
 べたべたになった互いの唇を手で拭い、アスランはカガリから少し感覚を空けて寝転んだ。此方に向けた背中が、少し強張っている。

 やがて、カガリにも軽い足音が聞こえてきた。
 ドアが音を立てて開き、凸凹の小さな人影が二つ現れた。
「おかあさま?」
「駄目だよ、母上はもうお休みなんだ」
 どうやら下の子に、上の子が付き合わされているようだ。尤も、上の子も、お兄ちゃんらしく振る舞おうと気負っているだけで、まだ両親が恋しい年頃なのだろう。
「いいよ。入っておいで、二人とも。一緒に寝よう」
 声を掛けてあげると、下の子が甲高い声を上げてカガリの胸に飛び込んできた。
「痛っ!」
 敏感になっている胸の先が潰れて、思わず声を上げてしまった。
「いたいの!?  ごめんなさい」
「……大丈夫」
 微笑むと、嬉しそうに乳間に鼻を埋めてくる。それが、あまりに可愛いらしので、小さな身体をぎゅうっと抱き締めてしまう。
 その様子を羨ましそうに、けれど何も言えずに立っている上の息子にも声を掛ける。
「ほら、お前もおいで」
 アスランとの間を、ぽんぽんと叩いて寝転ぶように言う。
 おずおずと寝転んだ息子の髪に頬擦りしてやると、照れくさそうに笑った。
「ねぇ、おかあさま。おとうさまは、ねてるの?」
「お前たちと遊んで疲れてしまったそうだ。ゆっくり寝かせて差し上げなさい」
 本当は、アスランが寝たふりをしているのには、子ども達には言えない別の理由があるからなのだが……。
 ――ちょっと残念だったかな。
 まだ、身体の芯には微かな疼きが残っている。
 アスランに抱かれて眠るのは、嬉しい。
 だが、子ども特有の体温の高い身体を抱いて眠る喜びも捨てがたいと思う。
「おかあさま。きょうね、おとうさまがね、」
「その話は明日にしよう。明日は昼まで、お父様もお母様も、お前たちと一緒にいられるから、ゆっくり話しが出来る」
 次男は不服そうだったが、カガリが一定の感覚でお尻を叩いてやると、うとうととし出した。
 長男は、もう寝息を立てている。
 子どもたちからは、昼間太陽の下で遊んでいたせいか、日向の匂いがする。
 そういえば、かつて自分も、甘い葉巻の匂いのする腕に包まれながら、日向の匂いがすると言われたことがあった。

 子どもたちがすっかり寝入ると、アスランがこちらに寝返りをうった。その顔には苦笑が浮かんでいる。
 頭をこちらに寄せてきたので、カガリもそれに応える。軽く触れ合わせるだけの口付けを交わすと、アスランは仰向けに寝て、目を閉じた。
 カガリもまた、日向の匂いのする子どもたちと、川の字に一つ線を足した形で眠るために、目を閉じることにした。












【あとがき】
携帯から投稿したものを幾分か修正してアップ。
ちょっと、冗長になってしまった……(汗)




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今更ながら、種ガンで二次創作。
いつかは、サイトになるはず……

だったけど、なりませんでした。
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