種ガンダム(主にアスカガ)のブログサイト
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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
05.
「お前、居候するなら、少しは働けよ」
アスランは、ぐうたら寝転ぶカガリを見下ろして言った。
そんなアスランの刺々しい態度に構うことなく、カガリは億劫そうに、むき出しの腹をポリポリと掻いた。
「だって、悪魔は働くのが嫌いなんだも~ん」
「『も~ん』って、お前……」
(こいつ、自分の仕事も、そんな理由でサボっているのか?)
彼にとっては、カガリが積極的に『悪魔の仕事』を遂行しない方が、穏やかに生活できるのだが、カガリの怠惰な様子を尻目にしながら、自分だけがあくせく働くことに、理不尽な感情を抱かずにはいられなかった。元々、機敏に働く奴ではなかったが、ここ最近のダレ具合は目に余る。
「いいから、掃除ぐらいしろ!」
「……え~?」
「『え~?』じゃない。はい、これ」と言って、雑巾と掃除機を渡した。
カガリはむすっとしたまま、手の平の雑巾をひらひらと泳がした。
「埃拭いて、掃除機かけるだけでいいから。掃除機の使い方は分かるな?」
一応、実践して掃除機の使い方を教えてやる。
カガリは、聞くだけは聞いているようだったが、未だ、ふて腐れたままだ。
「いいか、カガリ。『郷に入っては郷に従え』ということわざがある。お前は、人間界に来たのだから、人間の生活に馴染む必要があるんだ。それに、『働かざる者は、食うべからず』とも言う。対価を得るには、労働が必要なんだ」
ぐうの音も出ない正論である。しぶしぶ、カガリは頷いた。
「上から順番にやるんだぞ」
カガリに寝室の掃除を任せ、その間、アスランは水周りの掃除を始めることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アスランが、風呂の掃除を終えると、カガリはまだ寝室にいるようだった。
(そんなに汚れていないから、すぐ終わると思っていたのに……)
様子を見ようと寝室に入る。
「カガリ?――」と声を掛けて、アスランは絶句した。
――足の踏み場もないほど、ものが散乱していたのだ。
「あ! アスラン」
アスランに気がついたカガリは、ニコニコとご機嫌だった。
「……これは、どうしてこんなことになったんだ?」
呆気に取られたアスランが、口を開くと、何言ってるんだと、カガリが少し不服そうな顔をした。
「お前が言ったんだろ? 上から順番にやれって。ちゃんと上からやってるぞ」
カガリに得意気に言われ、上を見ると、クローゼットの上の天袋が開いて、中が空っぽになっている。
「いや、見えるところだけで良かったんだが……」
怒るべきなのか、呆れるべきなのか、対処に困って、くらくらと眩暈がした。
「なあなあ。これ、お前だろ?」
カガリは能天気に、アルバムを開いて、小さい頃のアスランの写真に見入っている。
(掃除してないじゃないか! 何が『ちゃんとやっている』なんだ!)
片付けを始めて、アルバムを見てしまうという、よくある片付けトラップに嵌っているカガリに、怒りが再び込み上げてきた。
「カガ――」
「やっぱり、小さい頃から友達いなかったのか?」
怒鳴ってやろうとしたら、またもや失礼なことをド直球で訊かれた。
「だから、全く友達がいないわけでは……」と、言いつつ、正直、彼らが友達と言えるのかどうか自信がない。
少なくとも、『親友』ではない。『親友』と呼べるのは、小さい頃によく遊んだ、キラという幼馴染だけだ。
思考の小宇宙に出掛けて、そのままMIA(Missing In Action)になりそうだった時、カガリはごそごそとダンボールをいじり始めた。
「……おい。これ以上、ものを出すのはやめてくれ」
「どうして?」
「日が暮れても、掃除が終わらないからだ」
アスランも屈んで、ダンボールの中に、床に撒き散らされたものを入れていく。
「ほら、それも入れて」とカガリにも、仕舞うように指示した。
「なあ。これ、何だ?」
「それは、高校の時のロボットコンテストの賞品」
「じゃあ、これは?」
「それは――って、お前、俺の話聞いていたか? 早くしないと、いつまで経っても終わらないから」
「でも、そんな雑に仕舞い込んでいいのか? アルバムとか、眺めたりしないのか?」
「いいよ。ここに入れてあるのは、使わないものばかりだし」
愚にも付かないものを、取り敢えずここに収納していたのだ。
「それも、こっちに渡し――あ!」
「何?」
「――ガンダムだ」
「これ?」
「うん」
カガリの手から受け取って、眺めてみた。
「う、わー……懐かしい。こんなところに入り込んでいたのか」
「ガンダムって何?」
「ガンダムを一言で説明するのは難しいな……。シリーズごとに定義が異なるんだが、大まかに言って、『ガンダム』というアニメに出てくる、モビルスーツと呼ばれる巨大ロボット兵器の中で、主役が乗るハイスペックなロボットのことだ。このガンダムヘッドとトリコロールカラーが特徴なんだ。だが、シリーズによっては、ガンダムは複数出てくるし、色もトリコロールとは限らない。俺が子供の頃に放送していたのは『機動戦士ガンダムSEED DANGEROUS』で、主役機がこの『スーパーフリーダム』。でも、俺が好きだったのは、準主役が乗っていた『ナイトジャスティス』だったんだ。この二機は、パイロットの性格を模したようにスペックが異なっていて……うんたーら、かんたーら……」
「ア、 アスラン! もう、いいよ! 日が暮れる!」
結局、『ガンダム』が何であったのかは分からず終いであったが、話を聞いているのが苦痛になってきたので、カガリは慌てて止めに入った。
アスランは、一人熱くなってしまったのを恥じ入り、手の平の上で弄んでいたガンダムのプラモデルを、ダンボールに入れた。
「大事なものじゃないのか? 出して飾っておけばいいのに」
「いや……。プラモデルで遊ぶような歳でもないし。これ、父親がクリスマスプレゼントに間違って買ってきたやつなんだ」
「気に入らなかったのか?」
「ああ。……いや。よく分からない。記憶にないんだ」
もらった瞬間は、希望したものではなくて、がっかりしたはずだ。だが、その後どう思い、どう扱ったのか記憶にない。
「記憶にないぐらい、杜撰な取り扱いをしていたってことだろうな」
「……そうでもないみたいだぞ」
「え?」
「ほら? ここにお前の名前が書いてある」
そう言って、カガリが指し示したガンダムの脚の底には、『あすらん』とマジックで書かれている。少し歪で、子供らしい字であったから、恐らくアスラン自身が書いたものだろう。
「名前を書いて、自分のものだって主張したいぐらい、気に入っていたってことなんじゃないか?」
「…………」
そうだったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。
これをもらったその瞬間は、本当にがっかりした。自分の欲しいものを知らなかった父親は、自分にも関心がないのだと思っていた。
しかし、自分の気持ちから少し離れて考えれば分かることだ。誰だって、自分の認識の中でしか考えられないし、動くことができない。単身赴任が多く、息子と過ごす時間の少なかった父が、せめて手ずからプレゼントを渡そうと購入してくれたものだ。それを有難いと思わないほど、情が理解できないわけではない。
(意識はしていなかったけど、ずっと拘っていたのかな……)
その時の感情は、やはり思い出すことはできない。
だが、両親に大事にされて、それを享受していたかもしれない子供の自分を思い描くのは、そう悪い気分ではなかった。
「……これ、『PG・1/60・スーパーフリーダムガンダム・ライトニングエディション』って言って、限定品なんだ。ここのスイッチを入れると――」
アスランが小さなつまみを動かすと、プラモデルの関節部分が光った。
「わあ♪」
すごい、すごい、とカガリは子供のように喜んだ。
「いいから、早く片付けよう。日が暮れる」
放っておけば、この調子で掃除が進まないだろうから、アスランはカガリを促して、自らも掃除に励んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カガリは、終始この調子で、掃除をするアスランの足を引っ張り続けた。彼女は、あれを飾りたい、これを飾ろうと言い出したのだ。
そのうちのほとんどが、アスランによって却下された。カガリに言うままに飾り続けたら、家の中がごちゃごちゃとうざったらしくなるからだ。
だが、そのうちで二つだけは残した。
一つは、「このアスランが一番可愛いから、これを飾ろう」とカガリが主張した、アスランと母が写った写真――本当は、家族三人のものを探したのだが、どうしても見つからなかったのだ。
そして、もう一つは、足の底に『あすらん』とマーキングされた、青いガンダムのプラモデルである。
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