種ガンダム(主にアスカガ)のブログサイト
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※アスカガ人間×悪魔パロ
『グレープフルーツ』
「お前を不幸にしてやる!!」
いつも呼び鈴が鳴った時には、必ずインターホンで確認するのだが、今日に限って確認を怠ったことを、アスラン・ザラはとてつもなく後悔をした。
グレープフルーツ
01.
それは、よく晴れた日曜日の朝のことであった。
アスラン・ザラは、惰眠を貪っていた。前日の夕方から、ロボット作りに精を出していたため、ベッドに入ったのは朝の六時を過ぎた頃だったのだ。没頭しすぎたせいで高ぶった神経を何とか宥めつつ、疲れた体と頭を休めてから四時間ほどたった時、軽快なチャイムの音が部屋に木霊した。
最初は無視を決め込んでいたのだが、何度もチャイムを押されれば、腹も立つ。
「しつこいな!!」
先週、ブランケットから替えたばかりの羽毛布団を荒々しく跳ね上げ、むくりと身体を起こした。
(どうしてオートロックのマンションなのに、いきなり玄関のチャイムが鳴るんだ? 誰か他の住人の後に続いて入って来たのだろうか? 大体、こんな時間に誰だ? この間、ネットで頼んだ本だったら許すが、くだらない勧誘や販売だったらぶっ殺すぞ!)
寝不足で、彼はとてつもなく不機嫌だった。眉間には、深い皺が刻まれている。
寝室から玄関に移動する間も、けたたましくチャイムは鳴り続けている。
(そんなに鳴らさなくても、聞こえている!)
苛々しながらドアを開けると、ボンテージ服に身を包んだ、金髪の少女が立っていた。
「おはよう♪ お前がアスラン・ザラだな?」
「……ええ、まあ」
よくよく見れば、黒い羽根のようなものや、触角のようなものや、尻尾のようなものを付けている。なんだか、アニメのキャラクターのコスプレのような妙な服装である。日曜の朝っぱらから、イベントでもないのに人の家の前でコスプレとは、なんて痛々しい奴なんだとアスランは思った。
「どちら様でしょう? 俺に、何の用ですか?」
不信感を募らせたアスランの冷淡な質問に、少女は良くぞ聞いてくれたとその豊かな胸を反らせた。
「私は悪魔のカガリだ! お前を不幸にしにきた!!」
はあ、と大きな溜息をついて、すかさずドアを閉めようとすると、自称悪魔のカガリは、ブーツを履いた足を瞬時に挟み込んで、ドアを閉じられなくした。
「何で、閉めるんだよ!!」
自称悪魔のカガリはプリプリ怒って、ドアを開こうとする。
アスランは、女のくせにやけに力の強いカガリに対抗しながら、事務的に対応を試みる。こういう輩には、感情的になってはいけないのだ。興味がない、いらないのだということを分かりやすく、且つ、冷たく伝えなくてはならない。
「俺は、そういったことには興味がないので、どうぞ可及的速やかにお引取り下さい」
「興味がないとかは関係ないぞ! 魔王様がお決めになったことだ。申し訳ないが、お前に拒否権はない!」
押して、引いて、押して、引いて……と繰り返すうちに、ドアノブの方がおかしくなったのだろう。バキっと大きな音を立てて、アスランの握っていたドアノブが取れた。力任せに引っ張ったせいで、あっと声をあげる間もなく、ドアの角が、カガリの額にぶつかった。
ゴンっという鈍い音が響き、後には静寂が残った。
恐る恐るカガリの方を見ると、カガリは額からだらだらと血を流している。
その時の笑みは、さすがは自称悪魔といったところだろうか。「入れてくれ♪」と言う顔面血まみれのカガリに対して、顔面蒼白のアスランは「……はい」と返事をする他はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お前、一人で住んでいるのか?」
手当てが終わったら、帰れと何度も念を押したにも関わらず、カガリは人の家を探索し始めた。あっちこっちと、扉や引き出しを開けて、そのままにしている。
アスランは、ドアノブの修理をしていたので、カガリの蛮行を止めることができずにいた。
「だったら何だ!? それより、勝手に開けるな! 開けたら閉めろ!」
「じゃあ、家族とは離れて住んでるのか?」
(っっっっ無視かよ!! 結局、俺が全部閉めるのかよ!!)
話の通じない輩と、話をするほど暇でも酔狂でもないのだが、根がお人好しの彼は、された質問には律儀に答えてしまう。
「親はもう死んだ。兄弟はいない」
傷の手当、ドアノブの修理、引き出しの収納。カガリが来てから、余計な仕事ばかりが増えたので、彼は苛々しながら、ぶっきらぼうに答えた。
「そうか。でも、こんなに広かったら、たくさん友達が呼べるな」
「家に招くような、仲のいい友人はいない」
「……一応聞くけど、恋人は?」
「いない」
「……モテないのか?」
「失礼な奴だな! もう、いいかげん帰れよ!!」
「やだ! まだ、会ったばっかりだぞ。私は、もっとお前のことを知る必要がある」
この世では、発言力の強い者こそが、正義である。その真理によれば、アスラン・ザラが、悪魔のカガリに敵うわけがなかった。
「もう、散々聞いただろ!? 大体、お前はどういうやつなんだよ!?」
「だから、悪魔のカガリだってば!」
「苗字は?」
「ただのカガリだぞ」
「只野カガリさんね」
(日系人か。金髪は珍しいな……)
「年齢は?」
「千三百十八……いや、千二百十八歳だったかな?」
「ハイハイ。十八歳ね」
(童顔だから、もう少し下かと思った。俺と同じ年じゃないか)
「学校には行ってないのか? 仕事は?」
「だから、お前を不幸にするのが仕事だ」
「今流行りのニートってやつか」
「いや、悪魔だ」
(こういう奴がいるから、真面目で善良な人間が困ることになるんだ。勤労と納税の義務はちゃんと果たせよ!)
「どこから来たんだ?」
「魔界だ」
「マ階?」
「下の方から来た」
「そうか。このマンションの下の階に住んでいるのか」
(どうりで、エントランスじゃなくて、玄関のチャイムが鳴ったのか……)
「――というわけで、さっさと自分の部屋に帰って……」
ピンポーン!
またしても軽妙なチャイムの音が響いた。この部屋は、ものが少ないから、やたらと音が響くのだ。
アスランは、話の腰を折られてしまったので、がっくりと項垂れながらも、今度こそインターホンで確認をしようと思い立ち上がった。
「――ってオイ!! 勝手に出るな!!」
アスランが立ち上がった時には、既にカガリが直接、応対していた。
今度は、頭のおかしな女ではなく、トリィ急便(配達屋)のお兄さんだった。数日前にアスランがネットで頼んだ本が今日届いたらしい。取り込んでいたので、アスランはお兄さんに対しても身勝手に腹を立てた。
配達に来たら、おかしな格好をした女が出てきたので、トリィ急便のお兄さんは目を白黒させている。それでも、忠実に職務を果たそうと、受け取りのサインを願い出た。
「おい! お前! 俺が受け取るから、奥にいろ!!」
「なんだよ。わざわざ出てやったのに。あ、もしかして、エッチな本だったのか?」
「違う! 科学雑誌だ!」
「焦るところが、ますますあやしい~な~♪」
きわどいコスプレ女(アスランの趣味ではない)に、わざわざネットで注文するようなエロ本(断じてエロ本ではなく、科学雑誌なのだが)。果たして、トリィ急便のお兄さんの目に、アスランはどのように映ったのだろうか……。
カガリからサインをもらうと、「あーとーございあしたー!!(ありがとうございました)」と言って、お兄さんは消えた。
アスランは、この日、ネット通販で、トリィ急便は使わないことに決めた。
「っっっもう、いいかげんに帰ってくれ!!!」アスランの苛立ちは最高潮に高まっていた。
「やだ!」
くるり、と後ろを向いたカガリの尻尾を掴んで、外に引きずり出そうとしたときだった。
「や、ああ~~ん!」という卑猥な声が飛び出た。
(な、なんだ!?)
真っ赤になって、尻尾を離すと、カガリが床にへたり込んで、涙をためた大きな瞳で睨み上げてきた。
「し、尻尾は弱いからダメだ! 触覚も触っちゃダメだぞ!」
「……ハイ」
(尻尾は本物だったのか)
アスランはこっそり、尻尾を掴んでいた右手をにぎにぎした。
結局、この日は、カガリを追い出すことができなかった。
【目次】 ≫ススム
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